発表

1C-084

男性の性的被害と回復の過程
援助要請の観点から混合研究法を用いて検討する

[責任発表者] 宮﨑 浩一:1
1:立命館大学

 目的
 日本における男性の性的被害を主題として扱う研究は1990年代から見られるが,海外の研究成果から日本での暗数を示すものや,男児への性的虐待を主題としたものが主となっている。岩崎(2001)は,日本にこれまでほとんど先行研究がないとして,欧米の先行研究をもとに男性の受ける性的被害に関する諸問題を整理し,今後の課題としてデータ収集と社会(特に専門家)の理解不足や偏見を挙げた。
 男性の性的被害者の援助要請について,その障害になっていると考えられているものに,男性性規範が挙げられる(Walker, Archer, & Davies, 2005)。また,男性の被害者の特徴には,男性性への混乱がもたらされることが,先行研究で示されている(Mezey & Kingx,1989; Walker et al., 2005)。 
 回復は多様なプロセスを辿ると考えられること,対象者の実態がほとんど明らかになっていないこと,参加協力者が多数にはならないと考えられることから,混合研究法収斂デザインを用いることによって,質的・量的それぞれの調査のみでは得ることの困難な男性の性被害者の回復について,理解を深めることを目的とした。
 方法
 本研究では調査対象者を,男性と自認し何らかの性的な被害を受けたと認識している20歳以上とした。混合研究法収斂デザインを用いて,量的調査としてインターネット調査を行い27名の回答を得た。また,1名にインタビューを行った。量的調査は記述統計量として表し,一部の項目において1サンプルのt検定を行った。インタビューのデータは複線径路・等至性アプローチによって結果をTEM図として示した。量と質それぞれの結果をPillar Integration Process(Johnson, Grove, & Clarke. 2017)を参考に統合した。
 本研究は立命館大学における人を対象とする研究倫理審査委員会の承認を得た(承認番号:衣笠-人-2018-24)。
 結果
 27名のインターネット調査の回答と1名のインタビューデータの結果を統合し,次の8点の推論が生成された。1)性指向や学歴といった他の属性に偏りは見られず,“多様な属性”が生成された。2)“意味づけのコスト”は【被害と認識できない状態】と<怪我;はい5(19%),いいえ22(81%)><これまでにしたこと,これからしたいこと;それぞれ一名の自由記述>から生成された。3)27名全員が男性の性被害者であり,【性的な被害かと考える】という被害認知の有無が“声を上げられなければ研究対象にできない”として積み上げられた。4)日本において男性の性被害について情報がないことは,アンケート調査でも<情報と相談という語を使ってそれが不十分と考えている9人(33%)>で具体的に被害の相談ができる場所や情報が得られることを求めていることから“情報の存在”が生成された。5)“援助要請先がない・個人の要因ではない”は,70%ほどは援助要請をしていなかったこと。また,援助要請スタイルとこれまでの援助要請行動をクロス集計したところ明確に分けられるものではなかったこと。そして【援助要請できない】という情報を探しても見つからない状態から生成された。6)<これまでにしたこと;なにもしていない11(41%)>と,TEA分析から得られた理論的に存在すると考えられる【何もしない・できない状態】から“低コストのサバイブ方略”は作られた。7)他者へ援助要請を行った中でも,<これまでにしたこと;他者と回答したうち3名>が自覚的に体験を話すことと捉えて回答していた。【体験の言語化】へ至る過程の困難さと共通し,“体験を統合して他者に伝える困難”は積み上げられた。8)“社会の認知”は<援助に必要なこと; 27名中20名が社会的な認知と支援体制と回答>し,質的調査からも同様に【社会の偏見がなく,支援体制がある】が得られているため生成された。
 考察
 男性の性被害者にとって援助要請はできなくて当然といえる事柄であった。だが,援助要請をしないこと・できないことは,回復のプロセスで機能していないのではなく,むしろ積極的な生存戦略であった。回復に役立ったことをインタビューの後半に聞き,「生き抜くこと」という回答を得た。被害からの回復の過程は,援助要請ができるようになるというような明確な目的点が達成されることではなく,「死なない」ことである。この意味で,本研究の参加者全員が日々回復のプロセスを歩んでいるのである。
 回復プロセスの類型化や推測統計学的な分析には耐えられるデータではないこと,インターネット調査の問題点の克服,女性被害者との比較や,男性被害者の位置づけが今後の課題として残った。
 引用文献
岩崎直子 (2001). 男性が受ける性被害をめぐる諸問題.
 こころの健康, 16(2), 67-75.
Johnson, R. E., Grove, A. L., & Clarke, A. (2017).
 Pillar Integration Process: A Joint Display
 Technique to Integrate Data in
 Mixed Methods Research. Journal of Mixed Methods
 Research.
 http://doi.org/10.1177/1558689817743108.
Mezey, G.C. & King, M. B.(1989). The effects of sexual
 assault on men: a survey of 22 victims.
 Psychological Medicine, 19, 205-19.
Walker, J., Archer, J., & Davies, M. (2005). Effects of
 Rape on Men: A Descriptive Analysis. Archives of
 Sexual Behavior, 34(1), 69–80.

キーワード
混合研究法/男性の性的被害/回復過程


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