発表

2D-083

イヌ・ネコの口腔ケアに対する飼育者の意識と行動

[責任発表者] 甲田 菜穂子:1
1:東京農工大学

【目的】 ペットを家族の一員と思う飼育者が増え,ペット飼育の質の向上や獣医療の発達により,ペットの寿命は延びている。ペットの長寿化により,ペットの生活習慣病が増加している。歯周病は,全身疾患の原因になり得るが,家庭のイヌとネコの80~90%が,歯周病に罹患していると言われている。歯周病は予防が可能であるが,イヌ・ネコの飼育者に予防の重要性が浸透していないと考えられる。本研究は,ペットの口腔ケアの普及を目指し,飼育者の,自身とペットの口腔ケアに対する意識と行動を調査した。
【方法】 人の口腔ケアに関する先行研究を参考に,飼育者とペットの口腔ケアについての質問紙を作成し,縁故法により手渡し,あるいは動物病院に委託して配布した。調査対象者は,イヌまたはネコの飼育者であった。回収した131名分のうち,不備のなかった99名分の回答を分析した。
【結果】 飼育者の自身の口腔ケアに対する意識と行動の関連では,定期的に歯科健診を受けている飼育者の方が,予防目的で歯科医院に通うことに価値があるという「予防の価値」,健康に気を付けて生活しているという「自己評価」の意識が高かった。自身の口腔ケアについて,歯科医師由来の情報を主に参考にする飼育者の方が,定期的に歯科健診を受けていた。
 ペットの口腔ケアについての飼育者の意識と,ペットへの歯磨き行動の関連では,ペットの歯を直接磨いている飼育者の方が,ペットの口腔状態が気になる「関心」の意識が高かった。ペットの歯磨きの情報が主に動物病院由来の飼育者の方が,ペットについての「関心」とペットの口腔健康を守るのは飼育者の役割である「役割」の意識が高かった。ペットの歯を定期的に診てもらっている飼育者の方が,ペットについての「役割」の意識が高かった。継続してペットの歯磨きを行っている飼育者の方が,ペットの歯周病は自身の力で予防できる「力の有効性」,歯周病予防の目的で動物病院に通うことに価値がある「予防の価値」,および「役割」の意識が高かった。歯磨きの情報源では有意な関連は認められなかったが,ペットの口腔ケアについて専門的指導を受けた飼育者の方が,継続してペットの歯を磨いていた。専門的指導を受けた飼育者の方が,ペットについての「関心」と「予防の価値」の意識が高かった。
 飼育者自身とペットの口腔ケアについての意識間の関連では,口腔状態が健康であることが良いことである,口腔状態が健康に及ぼす影響は大きい,「関心」,歯周病リスクがあってもおいしいものを食べたい(与えたい),「予防の価値」の意識では正の相関が見られたが,「力の有効性」では有意な相関はなかった。
 ペットの歯磨きを行っていない飼育者について,歯磨きを行わなくなった最多理由は,「ペットが嫌がったから」であった。歯磨きの重要性を認識していない回答を含め,飼育者の知識不足を示す理由は半数以上を占めた。ペットが歯磨きに協力してくれない時の対応は,「諦める」が最も多かった。
【考察】 飼育者自身の口腔ケアについて,歯科医院由来の情報源と定期的な歯科健診には関連があり,口腔ケアの実践に重要なのは,歯科医院に通うことに価値があるという意識であった。よって,この意識を高めることが人の効果的な口腔ケアの実践につながると言える。
 ペットの効果的な歯磨きについての飼育者の意識は,ペットの歯周病は飼育者の力で予防できる,ペットの口腔状態に関心がある,予防目的で動物病院に通うことに価値がある,ペットの口腔健康を守るのは飼育者の役割である,という意識であった。中でも最も重要な意識はペットの口腔状態への関心であった。これらの意識は相互に正の相関を示し,各々を高めることで,他の意識も同時に高まることが期待できる。そして,自身の口腔ケアについての意識が高い飼育者の方が,ペットの口腔ケアについても意識が高いことが示唆された。しかし,ペットの歯周病を飼育者の力で予防できるという意識は両者に相関関係が見られず,口腔ケアの重要性を言葉で理解させることが難しいペットに対して口腔ケアを行うことに,飼育者が困難を感じている可能性がある。
 ペットの歯磨きでは,ペットに口に触れられることに慣れさせることから始めて,徐々に歯磨きにも慣れさせる必要があるが,ペットの歯磨きを行わなくなった理由から,そのことを知らずに歯磨きを行おうとした飼育者が,ペットが嫌がることで諦めてしまう可能性が示された。また,歯磨きの重要性や歯磨き方法について知識不足な飼育者も多かった。
 ペットに効果的な歯磨きを行う3条件として,「動物の協力」,「歯磨きの大切さを認識した飼い主」,「技術的に歯磨きを行うことのできる飼い主」があり,さらに,飼育者が継続的に歯磨きの大切さを認識し続ける必要がある。ペットの口腔ケアについて専門的な指導を受けた飼育者の方が,ペットの歯磨きを行っていることや,ペットの歯磨きと飼育者の意識との関連も考慮すると,動物病院での診察時などに,飼育者に対して,ペットの口腔ケアについての専門的な指導を行うことが必要である。その際は,歯磨きの重要性や飼育者の責任を伝えて動機付けをすることから始め,ペットの口腔状態への関心が高まった飼育者に,正しい歯磨きの仕方を教えることで,ペットの歯磨きが普及すると考えられる。ペットの歯磨きへの動機づけを行う際は,ペットの効果的な歯磨きに重要な,ペットの歯周病は飼育者の力で予防できる,ペットの口腔状態に関心がある,予防目的で動物病院に通うことに価値がある,ペットの口腔健康を守るのは飼育者の役割であるという意識を中心に,飼育者の意識を向上させるように働きかけると効果的だろう。
【謝辞】 本研究の実施にあたり,市村衣梨佳氏に協力を賜りました。

キーワード
口腔ケア/イヌ/ネコ


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