発表

1D-086

つらい体験とポジティブ心理学的介入
(1)幸福感との関連

[責任発表者] 堀毛 裕子:1
1:東北学院大学

 【問題と目的】
 ポジティブ心理学の隆盛に伴い,ポジティブ心理学的介入についても,アメリカを中心に教育や職場,コミュニティなどさまざまな領域への応用に関する研究が進展している。しかしながら日本では,一般成人や臨床例を対象とする実践を目指したものはまだほとんど例を見ない。筆者はこれまで乳がん患者を対象にポジティブ心理学的介入を行い,1年後までのフォローアップにより,介入参加群は対照群よりも心理的健康が良好に保たれることなどを確認している(Horike, 2017;堀毛・佐藤・松浦・佐藤・君島, 2015など)。他方,さまざまな社会的逆境を体験した人々を対象とする調査では,喪失や犯罪被害,経済的困窮などつらい体験の種類により,立ち直りに有用な資源には違いがあることなどが見いだされた(堀毛・堀毛・安藤・大島, 2018)。本研究では,さまざまなつらい体験を持つ人々を対象として,ポジティブ心理学的介入の有効性について多角的に検討した。ここでは,その結果の一部を報告する。
 【方法】
 つらい出来事を体験した成人男女を対象にウェブ上で2度の質問紙調査を行い,その間,ポジティブ心理学的介入(ポジティブエクササイズ)を承諾した者には4週間の実施を求めて,前後の比較を行った。
1. 対象 ウェブ調査会社に依頼し,つらい体験があると回答した者のうち,エクササイズ参加者は30~40歳代・50~60歳代の男女各125名計500名,対照群は男女各50名計200名の合計700名を対象として,4週後のエクササイズ完了者が30~40歳代・50~60歳代の男女各50名計200名,対照群は男女各25名計100名の合計300名となるよう設定した。
2. 手続き ベースライン測定(下記質問項目への回答)とともにポジティブエクササイズの実施を依頼。エクササイズを承諾した対象者には,1週後・2週後・3週後・4週後の4回,実施の有無と実施概要の自由記述を求めた。ベースライン測定から4週後に,エクササイズ諾否を問わず初回と同じ対象者に質問項目への回答を求めた。
3. ポジティブ心理学的介入(ポジティブエクササイズ) 筆者の先行研究と同様に,Lyubomirsky(2007)に準じた2つのポジティブ課題(親切行動・よいこと探し)のいずれかを選択して4週間続けるよう促した。
4. 質問項目(本報告に関連する尺度のみ提示) 1) 堀毛ほか(2015)に準じて,「もっともつらい出来事」と思う事柄を18項目から選択,立ち直りの程度の6段階評定など 2) SOC測定尺度短縮版(Antonovsky, 1987:山崎・吉井監訳, 2001)13項目に7段階評定 3) 現在の幸福感を11段階で評定
5. 倫理的配慮  研究の実施には十分な倫理的配慮を行い,東北学院大学大学院人間情報学研究科研究倫理委員会の承認を得た。
 【結果と考察】
1. 対象者の特徴と初回幸福感に関する検討
 回答者724名によるつらい体験の内容を分析した結果,「親しい人との死別」が全体の34.1%を占め,さらに「自分自身の病気・体調不良」(9.8%),「いじめや嫌がらせ」(8.3%),「親しい人との離別」(8.0%),「家族や親しい人の病気・けが」(7.2%)と続いた。幸福感については,性別に関するt検定で女性が男性より有意に幸福感が高く(t=-4.232, p<.001),年代4カテゴリ(30・40・50・60歳代)の一要因分散分析では主効果が有意であり(F=5.808, p<.01),30代は40代よりも,60代は40代と50代よりも有意に幸福感が高かった。また婚姻と子どもの有無を組み合わせた4カテゴリの一要因分散分析では主効果が有意であり(F=21.464, p<.001),子どもの有無にかかわらず既婚者は未婚者よりも幸福感が高かった。さらにつらい体験を喪失体験・社会的被害体験・社会的困難体験・被災体験の4カテゴリにまとめ,幸福感について一要因分散分析を行ったところ主効果が有意であり(F=6.993, p<.001),喪失体験群は社会的被害体験および社会的困難体験よりも幸福感が高かった。
2. 最終幸福感に影響を及ぼす要因の検討
 対象者の回答のほかデモグラフィック変数を用いて,4週後の幸福感を従属変数とする重回帰分析を行った。独立変数として,年齢・世帯年収(9段階)・つらい体験からの立ち直りの程度・初回SOC3下位尺度・エクササイズ実施回数のほか,性別ダミー,つらい体験ダミー3種(喪失・社会的被害・社会的困難)・職業ダミー3種(サラリーマン・自由自営・専業主夫婦)をステップワイズ法により投入した。幸福感には,エクササイズ実施回数のほか,SOCの対処可能性と有意味感,世帯年収,専業主夫婦であることが有意な正の影響を与え,立ち直りの程度の低さは有意な負の影響を与えていることが確認された。ポスター発表ではさらに詳細な分析結果を報告する。
※本報告は,平成27年度~30年度JSPS科研費(JP15K04138)の助成による成果の一部である。

キーワード
ポジティブ心理学的介入/つらい体験/幸福感


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