発表

3C-087

列車運転時における先取喚呼の速度超過防止効果の検証

[責任発表者] 小野間 統子:1
[連名発表者・登壇者] 佐藤 文紀:1
1:鉄道総合技術研究所

目 的 速度超過は列車の脱線転覆にもつながりかねない事象であり,その防止は鉄道の安全において重要な課題である。速度超過の原因の一つには,運転中に速度規制区間を走行していることを失念してしまうことが考えられる。
 失念による速度超過の防止対策として,佐藤(2018)はイギリスのRisk Triggered Commentary driving(RTC)を基に,列車の運転士が従来行っている指差喚呼(対象を指差し,対象の状態を喚呼すること)に加え,忘れてはならないことを喚呼しながら頭でイメージングしたり,忘れてはいけないことを反復して声に出したり(反復喚呼)する先取喚呼を提案している。しかし,この効果は鉄道の運転場面では検証されておらず,また,先取喚呼が列車運転状況で速度超過を防止できるかについては検討されていない。そこで,本研究では,実際の運転場面での検証の前段として,簡易に模擬した実験を行い,先取喚呼が失念を原因とする速度超過の防止に効果があるかどうかを検討した。
方 法参加者 大学生101名(平均年齢21.3歳,SD = 1.64)
実験計画 1要因3水準計画(先取喚呼有り,先取喚呼無し(指差喚呼のみ),統制条件)の参加者間計画であった。
実験課題 PCモニターに呈示されたアイマジック社製の鉄道模型シミュレータで作成された運転行路を,制限速度を守りながら運転する課題であった。その際,参加者は制限速度を守って運転すること,列車を全ての駅に停車させること,駅停車時には「ドアボタン」を押して列車のドアを開け,ドアが閉まったら列車を発車させることが求められた。
 本課題では参加者が速度超過をしやすい箇所が4か所存在した。4か所の内,2か所は黄色の信号機を通過後の駅であった。列車が黄色信号を通過した後は,自動車とは異なり,次の信号機までは,一般的に時速45キロ以下の速度で走行しなければならない。したがって,駅出発時に45キロまでしか出せないことを失念してしまった場合は,それ以上の速度を出し,速度超過に至る。4か所のうちの残りの2か所は,徐行などの速度制限区間を走行中に,異常事態が生じて停車し,その対応を終えた後に出発するものであった。異常事態で停車する場所は必ず青信号機の前になるように設定された。速度制限区間を通過し終わるまでは青信号でも徐行速度で運転しなければならないが,運転を再開する際に速度制限区間を走行していたことを失念し青信号につり込まれると速度超過に至る。
実験条件 先取喚呼無し条件では運転中信号機を指差喚呼することが求められた。先取喚呼有り条件では指差喚呼に加えて,先取喚呼(制限速度や自分がこれから行うことなどについては喚呼し,異常事態の対応に移る前には30秒間運転再開時の状況のイメージングを行うこと)をすることが求められた。なお,鉄道の列車運転場面では,指差喚呼が基本動作となっている。統制条件では指差喚呼も先取喚呼もせずに運転することが求められた。
手続き 実験は個別実験で行われた。参加者ははじめに,シミュレータ上での列車の運転の仕方について説明を受けた。その後,先取喚呼有り条件の参加者には先取喚呼の行い方が,先取喚呼無し条件の参加者には指差喚呼の行い方が説明された。統制条件の参加者には,特に説明がされなかった。各条件の参加者は,それぞれ運転法の練習を行った。喚呼に慣れたと思われたところで本課題が行われた。練習と本課題の行路は異なった。各参加者における実験全体の所要時間は約60分であった。
結 果 黄色信号に気が付かなかった統制条件の参加者1名を除外し,平均速度超過回数を従属変数とした1要因分散分析を行ったところ,主効果が有意であった(F = (2, 97) = 29.64, p < .01)。Bonferroni法による多重比較を行った結果,全ての条件間で有意差がみられ,速度超過回数は先取喚呼無し条件において最も多く,次に統制条件において多く,先取喚呼有り条件において最も少なかった。
考 察 先取喚呼を行うと,指差喚呼のみを行った場合や何もしない場合よりも速度超過が少なくなったという実験結果から,先取喚呼には,速度制限区間を走行していたことの失念による速度超過に対して防止効果があることが示唆された。指差喚呼を行った場合に最も速度超過回数が多くなった理由の1つとして,大学生は指差喚呼をしながら運転することに慣れておらず,認知資源が指差喚呼をすることにより割かれ,運転や先々の守るべき事項を記憶しておくことに割く認知資源が少なくなったことが考えられる。先取喚呼を行うことによる速度超過防止効果は,今後運転士を対象として検証する。
引用文献佐藤(2018) 指差喚呼と先取喚呼 人間科学ニュース,216.
増田他(2014)指差喚呼のエラー防止効果の検証 鉄道総研報告,28(5),5-10.

キーワード
先取喚呼/速度超過/指差喚呼


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