発表

3B-083

フライトアテンダントの感情労働が航空会社経営に与える影響
役割コンフリクトに起因する企業に対する信頼減少傾向の修復

[責任発表者] 岡部 倫子:1
1:横浜国立大学

目的
 本研究の目的は,第一に,客室乗務員の知覚する役割コンフリクトと企業に対する信頼度には,負の関係性があるとする仮説の検証である。第二に,客室乗務員の実践する感情労働の側面は,従業員の企業に対する信頼度の減少傾向を,緩和という仮説を検証することである。客室乗務員の役割は,主に三つある。まず,航空機が破損しないように安寧秩序を保つこと(保安: safety),緊急時に乗客を誘導するなどして人命を守ること(安全: security),そして機内で乗客へのサービスを行うこと(顧客サービスの提供: customer service) である。この三つの役割は,航空会社が事業を展開する際のビジネスモデルや時代に関わらず,常に存在している。しかし近年は,保安と安全に関する役割は不変である一方で,乗客が客室乗務員に期待する役割は多様化している。例えば,休暇を楽しみたい乗客とビジネス通勤の乗客では,客室乗務員に期待する役割は異なるであろう。従って客室乗務員は役割コンフリクトを知覚する可能性がある。役割理論によると,従業員に期待される役割に一貫性がない場合に,従業員は役割コンフリクト(RC: role conflict) を知覚する (Katz & Kahn, 1978)。その結果,従業員はストレスを感じ,職務満足度は低下し,役割コンフリクトがない場合と比較すると職務パフォーマンスは低下する (Rizzo et al., 1970)。信頼性は,組織の研究者が以前より関心を寄せる論題ではあるが,近年は組織構造が以前より平坦となり,職場でチームワークを行うことが増えている。そのため,部下の信頼を確保することは効率性の高い経営をする上で必要であろう。他方で,顧客サービスの提供に関しては,従業員は微笑みを浮かべ親切にふるまうことで,顧客の満足感は向上するため,顧客はそのサービスを再利用するであろう。サービスを提供する企業が,従業員に求める微笑みや親切な態度は,ディスプレイ・ルールと言い,どのような場所でどのような感情を表現することが適切であるかという基準となる(Ekman, 1973)。感情労働におけるアフェクティブ・デリバリー (AD: affective delivery) とは,顧客サービを提供する際に,ポジティブな感情を表現して顧客満足度を促進する対応である。表層演技 (SA: surface acting) とは,感情戦略の一つで,本心を隠し,顔の表情や態度だけを変えて,顧客が期待する対応をすることである。深層演技 (DA: deep acting) とは,もう一つの感情戦略であり,本心を修正し,職務上要求される感情を表現することである。
仮説
H1. 客室乗務員が知覚する役割コンフリクトは,企業への信頼と負の関係がある。
H2. 客室乗務員が実践するアフェクティブ・デリバリーは,役割コンフリクトと企業との負の信頼関係を緩和する。
H3. 客室乗務員が実践する表層演技は,役割コンフリクトと
企業との負の信頼関係を緩和する。
H4. 客室乗務員が実践する深層演技は,役割コンフリクトと
企業との負の信頼関係を緩和する。
方法
文献レビューに基づき,5段階のリットカート尺度による質問票を,欧州の航空会社に勤務する500名の客室乗務員へ配布し,414名(82.8%)からの有効回答を得て,相関分析ならびに階層的重回帰分析を行った。
結果
役割コンフリクトと企業への信頼との間に,負の相関(r =-.19, p < .001)が認められ,H1は支持された。また,階層的重回帰分析において相互作用(RCxAD)を挿入した際に,相互作用が有意に認められ[F (13, 400) = 36.454, p < .001, ∆R² = .172],H2は支持された。同様に,相互作用(RCxSA) を挿入した際に,相互作用が有意に認められ[F (11, 402) = 41.901, p < .001, ∆R² = .167],H3は支持された。他方で,相互作用 (RCxDA)を挿入した際には相互作用が有意に認められず,H4は却下された。
考察
 従業員が顧客に対応する際に実践するアフェクティブ・デリバリーは,役割コンフリクトの知覚が低い状況において,企業に対する信頼の減少を,緩和あるいは修復する。他方で,役割コンフリクトの知覚が高い状況では,逆に,従業員はアフェクティブ・デリバリーによるポジティブな感情による顧客対応を行わなくなり,企業への信頼度の減少傾向はさらに悪化すると考えられる。同様のことは表層演技についても言える。本研究により,企業は顧客サービス従業員の役割を明確に提示する必要性が示唆された。例えば,乗務するフライトにより,顧客に丁重に対応する場合,あるいは時間のプレッシャーの中では急いで顧客サービスを完了することを優先することを明示するなどである。今後も,継続的にサービスを提供する従業員と企業を調査することにより,サービス従業員のストレスによるバーンアウトを防止し,企業に対する信頼の減少があれば,有効な人的資源の活用を提案したいと考える。本研究は,2019年-2022年の科研費 (19K13800) による研究成果の一部を含んでいます。

キーワード
フライトアテンダント/感情労働/信頼


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