発表

2C-066

意思決定尺度作業場面版の開発

[責任発表者] 北村 康宏:1
[連名発表者・登壇者] 河地 庸介:2, 阿部 千裕:3, 阿部 恒之:3
1:鉄道総合技術研究所, 2:東北福祉大学, 3:東北大学


背 景・目 的 様々な現場で働く作業者は,一連の作業を遂行する中で意思決定を繰り返し行っており,時にリスクのある意思決定が事故を引き起こす。そのため事業者は意思決定の教育訓練に取り組んでいる。しかし,個人の意思決定の傾向は判断に至る前の状況認識が影響し,個人差が大きいことから,その把握・評価は容易ではない。複数要因の影響を把握するには尺度による評価が考えられるため,本研究では作業場面における個々人の意思決定の判断前のプロセスを含めた心理尺度の開発に取り組んだ。作業場面の意思決定プロセスは大きく分けて「状況認識/問題の明確化」と「意思決定の実行」の二段階からなる(Flin, O’Connor & Crichton, 2008)。従来の尺度は上述した作業場面の意思決定プロセスを反映していない。
 意思決定プロセスを網羅した尺度作成にあたり,作業現場における意思決定に類似した概念として問題解決に着目した。問題解決とは,問題の解決に対する効果的な選択肢を得て,それらの選択肢の中から最も効率的な解決法を選ぶ確率を高めるという,認知-行動のプロセスである(D’Zurilla & Nezu, 1982)。これは「状況認識/問題の明確化」と「意思決定の実行」に類似する概念であると考えられる。問題解決に関する尺度は,問題解決に至るプロセスをそれぞれ下位尺度から詳細に評価している。しかし,この問題解決のプロセスは作業場面における意思決定のプロセスと必ずしも一致していない。また作業場面における意思決定に悪影響を与える様々な外乱の要素は考慮されていない。そこで,問題解決の尺度を基に作業場面における意思決定プロセスや外乱要因を網羅した尺度を開発し,その信頼性と妥当性を検証した。

方 法調査手続き 2,074名の正社員(20歳代から60歳代まで:男性1,025名, 女性1,055名)を対象にインターネット上で回答を求めた。
項目作成 社会的問題解決尺度Social Problem−Solving Inventory Revised 日本語版(以降SPSI-R; 佐藤・高橋・松尾・境・嶋田・陳・貝谷・坂野, 2006)の中から,Flin, et al.,(2008)が示した2段階の意思決定プロセスに関連する項目を抜き出し,それぞれを作業場面における意思決定プロセスに該当するよう改変した。さらに,外乱が意思決定に与える影響を測定するための項目を独自に作成し,合計46項目からなる意思決定尺度作業場面版を試作した。
調査内容 試作した意思決定尺度作業場面版46項目に加え,妥当性検証のため,適切な問題解決の傾向を測定するProblem Solving Inventory(以降,PSI;寺尾・乗松・中村,



2017),リスクテイキング行動の傾向を測定するRisk Propensity Questionnaire(以降,RPQ;森泉・臼井, 2011),リスキーな意思決定と関連性が高いとされる衝動性を測定するBarratt Impulsiveness Scale(以降,BIS;小橋・伊田, 2013)の3つの尺度を併せて使用した。調査に際しては,「0:全く当てはまらない」~「4:とてもよく当てはまる」の5件法で回答を求めた。

結 果 意思決定尺度作業場面版について探索的因子分析を実施した結果,合計43項目からなる3因子が抽出された。第1因子は,意思決定の二段階プロセスの中で「状況認識/問題の明確化」の適切な実施に関連する26項目から構成されており,「適切な状況認識/問題の明確化」の因子であった。第2因子は意思決定の二段階プロセスの中で「意思決定の実行」の不適切な実施に関連する11項目から構成されており,「不適切な意思決定の実行」の因子であった。第3因子は外乱に関連する4項目から構成されており,「外乱への耐性」の因子であった。α係数は第1因子から順に,.94, .86,.74であった。
 並存的妥当性を検証するため,PSI,RPQ,BISと,各因子との相関係数を算出した。その結果,適切な意思決定の傾向を示す第1因子はPSIと正の相関が(r=.44),RPQやBISとは負の相関がみられた(それぞれr=-.07, r=-.39)。不適切な意思決定傾向を示す第2因子は逆に,PSIと有意な負の相関が(r=-.70),RPQやBISとは正の相関がみられた(それぞれr=.29, r=.48)。第3因子はPSIとBISに弱い相関がみられた(それぞれr=.24, r=-.15)。 
 
考 察 本研究では,作業場面の意思決定プロセスを包括的に捉える意思決定尺度作業場面版を作成した。α係数から,本尺度が高い信頼性を持つことが明らかになった。また, PSI,RPQ, BISの尺度得点と各因子の相関係数から,一定の構成概念的妥当性を確認することが出来た。
 今後は,実際の意思決定経験を問う質問項目や現実場面を模擬した意思決定課題を活用し,更なる妥当性検証を行うことで尺度の有効性を向上させていく予定である。

引用文献Flin, R., O’Connor, P., & Crichton, M. (2008). Safety at the sharp end: A guide to non-technical skills. Aldershot: Ashgate

キーワード
意思決定/心理尺度


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