発表

2B-086

仕事の面白さは何によって決まるのか?
Psychology of Working の枠組みを用いた仕事の面白さの規定因の検討

[責任発表者] 今城 志保:1
[連名発表者・登壇者] 正木 郁太郎:2
1:リクルートマネジメントソリューションズ, 2:東京大学

【背景】働く人の心理的健康が問題視され,勤務時間や非正規雇用の処遇改善などを中心とした就労条件にまつわる働き方改革が推進されている。しかしこれらの条件が整った先に,改革が目指す“個人のよりよい将来展望”や“組織の生産性向上”がどのように実現されるかは不透明である。今城・正木(2018)では上記のような問題意識から様々な働き方をする個人を対象に調査を行い,「組織への情緒的コミットメント」「組織への貢献意欲」「情緒的消耗感」の3つの従属変数に対して影響を与える要因を探索的に検討した。その結果,性質の異なる従属変数のいずれに対しても望ましい効果が認められたのは,仕事の自律性と仕事の面白さに対する満足感であった。本研究では,仕事の自律性にも影響されるだろう上位概念として「仕事の面白さ」に着目し,どのような要因が仕事の面白さに関連するかについて,検討を行う。
人はどんなときに,仕事の面白さを感じるのだろうか。Blustein(2008)は,これまで職業心理学やキャリアの研究者が対象としてきた職業選択の自由が許される人ではなく,より広汎に働く人を対象に,働くことの心理的な意味について研究を行なうことの必要性を説いてきた。彼の提案するpsychology of working framework(PWF)では,私たちは働くことで「生存」「関係性」「自己決定」の3つの基本的な欲求を満たしており,働くことは心理的健康に寄与すると主張している。生存の欲求は雇用や収入の保証で満たされると考えられ,安心感につながるものの,仕事の面白さとは直接的な関係を想定しにくい。一方,関係性と自己決定の欲求については,これらが満たされたときに仕事の面白さが感じられると予測する。加えて,仕事の面白さは仕事に何を期待するかによっても影響される可能性がある。例えば仕事に安定した収入を求める人は,仕事に面白さを期待せず,したがって面白さを感じにくい可能性がある。そこで,仕事に対する期待の影響もあわせて検討する。
本研究では以下の3つの仮説を検証する;H1 相対的に収入の低い層でも,仕事の面白さを感じる人は一定数存在する;H2 報酬や安定といった条件面を仕事に求める人は,仕事の面白さを感じにくい;H3 社会性と自己決定の欲求が満たされる職務に従事する人は,仕事の面白さを感じやすい。
【方法】様々な業界,職種で働く人を対象として2018年に行ったインターネット調査から,回答に不備のあったものを除く1244名のデータを用いる。従属変数として,様々な調査を参考に作成した仕事に関する側面別の満足度のうち,「仕事の面白さ」について4段階(1とても不満である~4とても満足している)で評定した結果を用いる。職務特性については,Morgeson & Humphrey (2006)の「自律性α= .91」と,森永ら(2012),Van der Vegt et al.(2001)の項目を用いた「チームワークα= .86」を用いる。それぞれ「自己決定の欲求」と「関係性の欲求」に対応するものと置く。仕事に求める要素としてこれまでの調査・研究を参考に,「場所や時間の自由度の高さ」「自分の能力を十分に発揮できる機会」「評価の透明性・納得感」などの19項目を提示し,「なかったら困るもの」として複数選択した結果を用いる。属性として,性別,年齢,未既婚,職業,職種,企業規模,年収を用いる。
【結果と考察】仕事の面白さに関する満足度の平均値を比較すると,高年収群ほど仕事の面白さを感じる程度は高まり(F=3.4, df=3, p< .05),500万円以下の2グループと900万円以上のグループの差は有意であった。しかし900万円未満の3グループ間に差はなく,半数以上は仕事の面白さに満足していると回答した(300万未満58%,300~500万未満60%,500~800万未満66%)。従ってH1は支持された。次に,仕事の面白さの満足度を従属変数とした一般化線形モデルによる分析を行なった(尤度比カイ2乗= 202.60, df=45, p= .00)。属性については,年収,組織の規模,就業時間などは有意な影響を及ぼさず,職業で一般社員と比べて自営業(商工サービス)の人の満足度が有意に高くなったのみである(β= .70)。仕事への期待では,報酬の高さや昇進を選択した人は選択しなかった人と比べて仕事の面白さに対する満足度は低く(順にβ=-.12,β=-.28),H2も支持された。一方で,社会貢献を選択した人は,選択しなかった人に比べて,満足度が高かった(β= .20)。仕事の特徴については,自律性もチームワークも有意な正の影響があり(順にβ= .19,β= .26),H3も支持された。仕事の面白さは,職種や年収などではなく,仕事への期待と仕事の特徴によって規定された。仕事の特徴は,PWFで提案された2つの欲求に対応する要素が影響しており,これらの欲求の汎用性と重要性を示唆する結果となった。
日々の仕事が面白いと思うことは,やりがいや自己実現といった言葉で表されるものよりも,もっと基本的な欲求に関連していた。従って,仕事で面白さを感じることは,様々な職業や職種の人にとって可能だと考えられる。年収や昇進といった外的要因を求める人は面白さを感じにくいとの結果であったが,これらを統制しても職務の自律性やチームワークの効果は有意であった。勤務時間や報酬といった目に見える条件に加えて,自律性やチームワークを高めるような仕事や職場の設計に目を向けることで,効果的な働き方改革への示唆を得ることが期待できる。(謝;JSPS科研費JP17H06592 代表者:正木郁太郎)
【主要文献】今城・正木(2018)働き方改革は何を目指すべきか;異なる結果変数に対する側面別満足度の影響の違い 日本社会心理学会第59回大会
Blustein, D. L., Kenna, A. C., Gill, N., & DeVoy, J. E. (2008). The psychology of working: A new framework for counseling practice and public policy. The Career Development Quarterly, 56(4), 294-308.

キーワード
仕事の面白さ/働くことの心理学/仕事の自律性


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