発表

2A-090

保育の場で働く人々のメンタルヘルス(2)
―― 保育者の経験年数による違い――

[責任発表者] 藤後 悦子:1
[連名発表者・登壇者] 山極 和佳:1, 磯 友輝子:1, 日向野 智子:1, 髙橋 一公:1, 角山 剛:1
1:東京未来大学

問題
 日本の子育て支援政策において,保育者に求められる役割は大きい。保育者の日々の仕事は,子どもや保護者との良好な関係性構築を目指す,高いコミュニケーション能力が求められる感情労働(戸田他,2011)である。特に若い保育者にとっては,様々な背景を抱えた保護者へのコミュニケーションには負担感を生じることもあり得よう。さらに保護者対応の失敗に対して適切なフォローがない場合,孤立してしまい,早期離職につながることもあり得る。そのためには,保育者の保護者支援における困り感を把握し,保育者育成について検討していく必要がある。そこで,本研究では,日々の保護者支援を担っているクラス担当の保育者を取り上げ,経験年数ごとの保護者対応への不安感,精神的健康度,保育者間コミュニケ―ションについて検討することを目的とする。
方法
調査期間:2017年6月
調査方法:質問紙調査票は,新潟県保育士会に所属する新潟県内の391保育施設の職員3910名を対象として配布した。有効回答者数は2767名(有効回答率85.6%,女性2628名・男性134名・不明5名),平均年齢は39.24歳(SD12.17)であった。
調査内容:メンタルヘルス,保育者間コミュニケーションスキル,保護者支援への不安について尋ねた。(1)フェイスシート:性別,雇用形態,役職・職種(①施設長・園長・副園長,②主任・主査・主幹,③クラス担任,④保育補助,⑤給食担当,⑥栄養士,⑦看護師,⑧保育職その他,⑨事務等その他保育職以外),経験年数
(2)メンタルヘルス:GHQ12(中川・大坊,2013,12項目4件法)
(3)保育士間のコミュニケーションスキル(菊池,1998および日向野他,2016から作成した41項目5件法)
(4) 保護者対応への不安:困難3項目,悩み2項目5件法
結果
 本研究の対象者のうち,クラス担当の保育者1510名を対象とし,保育の場での保育者育成を検討するために,経験年数を上村(2019)を参考に分類した。内訳は,初任者1年以下416名(28.8%),若手前期2年~5年436名(30.2%),若手後期6年~10年259名(17.9%),中堅11年~20年284名(19.7%),熟達21年以上48名(3.3%)の5群,及び無記入67名であった。各群に人数の偏りがあったため中堅・熟達をまとめて332名(23.3%)の4群として分析することとした。
 これら経験年数を要因として,GHQ12得点,保育者間のコミュニケーション尺度および保護者対応への不安の各下位尺度得点について一要因分散分析を行った。その結果,GHQ,受容,悩みは保育者の経験年数間で有意ではなかった(F(3,2472)=1.18,n.s./F(3,2513)=2.19,n.s./F(3,2502)=0.83,n.s.)。一方,調整(F(3,2459)=90.19,p<.001),親和(F(3.2510)=18.44,p<.001),困難(F(3.2499)=19.11,p<.001)は有意であった。多重比較の結果,調整では,若手前期,若手後期,中堅・熟達が初任者より高く,熟達・中堅と若手後期は若手前期より高く,中堅・熟達は若手後期よりも高かった。親和は,若手前期,若手後期,中堅・熟達が初任者より高く,中堅・熟達が若手前期より高かった。困難は,若手前期,若手後期,中堅・熟達が初任者より高く,中堅・熟達が若手前期より高かった。
 次にGHQを目的変数,保育者間コミュニケーションスキルと保護者対応の不安の各下位尺度を説明変数としたステップワイズ法による重回帰分析を経験年数別に行った。その結果,すべての経験年数群で,調整が有意であり,親和は初任者,若手前期,中期・熟達に有意であった。これらのスキルが高まるほど,精神的健康度が高まった。保護者対応への不安は,初任者,若手中期と後期には困難が,中堅・熟達には悩みが有意であり,これらが高まると,精神的健康度は下がった。なお,中堅と熟達を分けて重回帰分析を行ったところ,熟達においては調整,受容,悩みが有意であった。
考察
 精神的健康度は,経験年数により差がないことが明らかとなった。一方で保育者間コミュニケーションの調整や親和のスキルは,初任者は最も低く,保護者対応の困難は初任者が最も高かった。精神的健康度への影響は職員がお互いの問題に関して調整を図ったり,打ち解けたりするスキルが高まると,精神的健康度が高まっていた。保育の場では調整する力と職員同士の親和的な仲間意識を高めることが精神的健康維持に欠かせないことが示された。保護者対応に関しては,経験年数が浅いうちは保護者との関係の困難さが,経験年数が高まると,保護者と信頼関係を結びそれをいかに維持できるかという長期的な関係作りに悩む様相が示された。
主要な引用文献
戸田他(2011).保育における感情労働―保育者の専門性を考える視点として 北大路書房
(本研究は,科研費18K18672の補助を受けた)

キーワード
保育の場で働く人々/メンタルヘルス/経験年数


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