発表

1D-083

見逃し体験における写真素材の意味的特徴の影響

[責任発表者] 増田 貴之:1
[連名発表者・登壇者] 佐藤 文紀:1
1:鉄道総合技術研究所

目 的 鉄道のような産業現場で働く社員は,危険源や変化を見逃さないために,適切に注意を配分する必要がある。しかし,注意力の限界により危険源や変化を見逃す可能性を認識しなければ,適切に注意を配分しようと考えない可能性がある。危険源や変化を見逃す可能性を認識させる方法として,見逃しを体験させることが考えられる。
 Masuda(2018)は,車掌の業務場面の写真を用いたチェンジブラインドネス課題を,車掌を含めた鉄道会社社員に体験させた。結果,体験者は,今後様々なところに注意を向けようと考える傾向があった。また,体験者は,体験した変化が現実に起こりうると評価した場合に,今後様々な箇所に注意を向けようと考える傾向があった。このことから,現実性といった写真素材の意味的特徴が,見逃し体験の効果に影響する可能性が示唆された。ただし,体験に用いた写真素材が1種類であったため,結果を一般化することは困難である。
チェンジブラインドネス課題の素材となる写真の意味的特徴が体験効果に与える影響について知見を得ることは,より効果的な体験課題を開発するうえで重要である。例えば,現実性の低い変化箇所や体験者に関係ない場面の写真で体験しても,現実ではあり得ない,自分には関係ないと認識され,危険源や変化を見逃す可能性や,注意配分の必要性の認識が向上しない可能性がある。そこで,本研究では,写真素材の意味的特徴のうち,変化の現実性,場面の自己関連性と見逃し体験効果の関係を検討した。
方 法予備実験 実験で使用する写真素材を選定するため,39種類の写真素材について,変化箇所の現実性,場面の自己関連性の評定を行った。隣り合ったディスプレイに変化前と変化後の写真素材を提示し,実験参加者に,変化箇所の現実性,場面の自己関連性等について当てはまる程度を10段階(同意する:10~同意しない:1)で評定させ,それぞれの平均評定値を算出した。それぞれについて,平均評定値が中央値より高い写真素材を高群,低い写真素材を低群として分類し,それぞれの高/低を組み合わせた4群(自己関連性高・現実性高,自己関連性高・現実性低,自己関連性低・現実性高,自己関連性低・現実性低)に,それぞれ3種類の写真素材を選定した。その際,別の予備実験で測定した各写真素材の検出率(変化箇所に気づいた実験参加者の割合)に基づいて,各群に選定された3種類の写真素材の平均検出率が,同程度となるようにした。
実験参加者 大学生53名(男性31名,女性22名,平均年齢20.80歳,標準偏差1.78)であった。
実験課題 フリッカーパラダイムを応用した実験課題を用いた。ディスプレイに,黒いマスク画像を挟んで写真Aとその一部が異なる写真A’が交互に提示された。実験参加者は,変化に気付いた時点でスペースキーを押すことが求められた。また,マスク画像の中央に,単語が提示された,実験参加者は,提示された単語が示すものが,その次に提示された画像に含まれるか否かを口頭で答えることが求められた。これは,課題の難易度を高め,より多くの見逃しを誘発するためであった。
実験手続き 実験参加者は,前述の4群の写真素材のいずれかを,実験刺激としてランダムに割り当てられた。また,課題の体験前後で,見逃さない自信に関する2項目,注意配分の必要性に関する2項目に,当てはまる(100)~当てはまらない(0)の間で回答することを求められた。
結 果有意確率を5%として分析を行った。各実験参加者の,3種類の写真素材の平均検出率について,変化の現実性(高-低)×場面の自己関連性(高-低)の2要因分散分析を行った結果,各要因の主効果および交互作用は有意でなく,見逃し体験の効果に,検出結果による影響は交絡していないと考えられた(自己関連性高・現実性高:0.13,自己関連性高・現実性低:0.14,自己関連性低・現実性高:0.18,自己関連性低・現実性低:0.17)。
 写真素材の意味的特徴の,体験効果に対する影響を検討するため,見逃さない自信を従属変数として,変化箇所の現実性(高-低)×場面の自己関連性(高-低)×測定タイミング(体験前-後)の3要因の分散分析を行った。その結果,測定タイミングの主効果のみ有意であり(F(1, 49) = 82.32),体験後に低くなった(体験前:47.23,体験後27.19)。また,注意配分の必要性の認識についても同様に分析した結果,測定タイミングの主効果のみ有意であり(F(1, 49) = 6.44),体験後に高くなった(体験前:69.98,体験後75.35)。
考 察 実験の結果,見逃し体験によって,見逃さない自信は体験後に低くなり,注意配分の必要性の認識は高くなるという結果が見られたが,今回検討した変化の現実性,場面の自己関連性は,体験効果に影響しなかった。その理由として,今回の実験参加者である大学生は,鉄道会社社員と異なり,日常から危険源や変化を発見する必要がある業務に携わっていないため,体験時に,変化が現実場面で起こりうるか,場面が自分と関連するかといった,現実との具体的な結び付けについては意識しなかったことが考えられる。今後,現場社員を対象に,検証する必要がある。

キーワード
チェンジブラインドネス/意味的特徴/見逃し体験


詳細検索