発表

1B-087

役割や権限が与えられたときの対人行動の変化に関する研究

[責任発表者] 堀下 智子:1
[連名発表者・登壇者] 小倉 有紗#:1
1:西日本旅客鉄道

目的
 近年,パワーハラスメント等が社会的に問題となっているように,地位関係をはじめとするさまざまな影響力を背景に,不適切な指導や圧力が生じることがある。このような問題は,同一集団内の関係(上司部下など)だけではなく,異なる集団に属する個人の関係でも,集団同士の関係性や集団内での個人の役割など様々な要因によって生じるだろう。そこで本研究では,異なる集団に属する個人の間での不適切な行動(威圧的な発言等)の発生要因を明らかにすることを目的とし,実験を実施した。実験の課題として,現実場面を比較的反映しており且つ集団の地位関係が大きく関わると考えられる,会社間の契約交渉場面を模擬した課題を作成した。そして,不適切な行動の原因として,権威差(会社間の地位関係)および知識差(双方が持つ知識・経験・情報の量の違い)を要因として検討した。

方法
参加者 発注者役参加者として19歳から30歳までの男性40名(平均22.8歳),受注者役参加者(サクラ)として男性2名(21歳と23歳)であった。
デザイン 権威差2(有・無)×知識差2(有・無)の2要因混合計画であり,権威差のみ実験参加者間計画であった。
模擬交渉課題 発注者・受注者それぞれが自らの会社の契約担当者の役割を担い,「データ入力業務の発注」に関する契約をまとめるための交渉を行う内容の課題を作成した。権威差・知識差の有無を操作した条件のストーリーのもとで,発注者・受注者の双方が,作業にかかる費用や日数,作業人数等の契約条件案を提示し合ったり,交渉に関わる会話を行ったりすることで,双方の納得のいく契約条件で合意することを目指すよう指示した。交渉は全て離れた場所(別室)のPC上で行った。
契約条件案の提示 PC上の入力フォームに価格,日数,作業人数等をテンキーで入力し,送信した。
交渉中の会話 PC上のプルダウンメニューからセリフを選択して送信する方法で会話を行うよう指示した。セリフ群は予備実験によって作成した。なお,受注者側のセリフについては,発注者役のどのセリフにも対応できるセリフと提示順をあらかじめ用意した。
条件操作 課題前の教示および課題中の受注者側のセリフによって,権威差は「あり」条件では立場が「発注者>受注者」,知識差「あり」条件では契約交渉に関する知識経験が「発注者<受注者」となるよう操作した。「なし」条件については立場や知識経験が同等になる様に操作した。
手続き 発注者役1名と受注者役2名(知識差あり/なし条件の交渉相手と教示)の計3名の参加者および実験者1名で実験を開始した。交渉の概要と各々の立場,役割,知識差・権威差の教示を行ったのち,「受注者役は別室で続きの説明を受け,そのままPCを介して交渉を行う」と説明して受注者役のみ退室した。発注者役に対してPC操作方法,交渉の手順の説明・練習を行い,本試行として模擬交渉課題を2回(知識差:あり/なし,順番はカウンターバランス)行った。本試行中の発注者役については,実験者が別室でPC操作を行った。
測定項目 (1)威圧的セリフの選択数:契約条件の送信とセリフ選択の回数・タイミングはあらかじめ決められており,1交渉につき実験協力者は15回のセリフ選択を行うこととした。選択肢の中には威圧的なセリフとそうでないセリフがそれぞれ複数用意されており,威圧的なセリフを選択した回数を測定した。(2)自信・勢力感:実験前・課題1回目前・2回目前・2回目終了後の計4回,自信・勢力感の測定を行った。(3)操作チェック:2回目終了後には知識差・権威差操作の確認のための質問紙(知識差:「相手は私より知識を持っていた」等,権威差:「私は相手に強い態度で出てかまわない」等)にも回答させた。 

結果と考察
 威圧的なセリフの選択数について2要因分散分析を行った結果,権威差の主効果のみ有意であり(F(1,38) =13.424, p < .01),権威差あり条件においてなし条件よりも威圧的なセリフの選択数が多かった。なお,権威差の有無条件間では,実験開始前の自信・勢力感に有意な差は見られなかったことから,選択数の差は課題における権威差操作の影響と解釈できる。一方,操作チェックについては,知識差操作に関する質問項目では知識差の主効果のみ有意であり,知識差あり条件のほうがなし条件よりも点数が高かった(F(1,35) = 17.758, p < .001,F(1,35) = 12.937, p < .01)ものの,権威差操作に関する質問については権威差の主効果は見られなかった。このことから,自分に権威がある設定の場合,威圧的な態度で交渉相手に接していた自覚は無いものの,実際の交渉の場ではより威圧的なセリフを選んでいる傾向があることが明らかになった。知識差については,実験後のインタビューからは違和感を感じていた参加者が多いことが分かったため,操作方法についてさらに検討する必要がある。

キーワード
勢力感/権威差/威圧的態度


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