発表

3C-081

重心動揺データから演者の印象の決定因を探る

[責任発表者] 野村 亮太:1
1:鹿児島純心女子大学

問題と目的
一般に演者とは,舞台芸術の表現者を指すが,多くの人の前で話すというパフォーマンスを行っているという意味では,教員や政治家などもまた演者である。こうした演者の印象については,感性に基づく定性的な評価が行われることが多く,演者の特徴を個人間で比較したり,演者の熟達を継続的に評価したりするのは容易ではなかった。こうした問題を受けて演者の印象を評価する尺度が開発されている(野村, 2010; 野村・ヒュース, 投稿中a, 投稿中b)。演者の印象は,様々な要因に規定されると考えられるが,本研究ではそのうち非言語情報の役割を探索的に検討するために,演者が話している際の重心動揺に着目し,CoP(center of pressure)を算出した。話者のCoPは,身振りや手ぶりを行うための関節や筋肉の運動という多次元の情報が,接地する足の裏を介して2次元平面上に写像されたものだと解釈できる。この考えが妥当なら,CoPの時系列統計量は,話し手が放つ非言語情報の特徴量に対応すると考えられる。本研究では,この仮説の下で,演者が話をする際のCoPとその時の印象尺度評定値との関連を検討するための手法について検討する。
方法
話し手・聞き手 話し手は大学教員1名(38歳,男性)であった。話し手は実験者を兼ねた。聞き手は大学生4名(21~22歳,女性)であった。
質問紙 演者の印象評定尺度(野村・ヒュース, 投稿中b)を用いた。この尺度では,「安定している」や「リズミカル」など,演者を形容する語に当てはまる程度を回答するものであり,「独自性(以下,O因子と呼ぶ)」「技術・安定性(以下,S因子と呼ぶ)」「リズム・にぎやかさ(以下,R因子と呼ぶ)」の3因子構造が得られることが知られている(野村, 2010)。評定に当たっては,「7.非常にあてはまる」~「1.まったくあてはまらない」の7件尺度を用いた。
装置と測定値 重心動揺データの取得には,バランスWiiボード(任天堂, 日本)をフォースプレートとして用い,計測用ソフトウェア(兵頭, 2018)を用いた。サンプリング周波数は100 [Hz]であった。話をしている最中のCoPのx座標およびy座標について,5点移動平均法による平滑化を行い,身長の個人差の影響を避けるため0-1の範囲に正規化した。その後,約0.01秒ごとの移動距離(ユークリッド距離)を計算し,分析に用いた。
手続き 話し手は2分程度の短い話をした後で質問紙に回答してもらうことを説明したのち,約1分50秒に渡り,笑いを誘う短い話(「じこ」紹介をすると述べて,事故の紹介をするというもの)を行った。その後,聞き手は話している際の話し手を思い出しながら,演者の印象評定尺度に回答した。
結果
印象評定値 先行研究に基づき,3因子を想定して,平均と標準偏差を算出した。その結果,O因子,S因子,R因子の順で4.18(0.91),4.29(0.7),4.46(0.55)であった。
統計量  CoPの軌跡を図1に示す。多くの時点では左右偏らず立っているが,やや後ろに重心があることが分かる。また,左前方と右後方に重心が移っている時点が見られる,これは身振りに伴って生じたものである。総移動距離は,5046.76[mm]であり,これは平均秒速2.66[cm]に相当する。また,移動距離はほぼ対数正規分布に従っていた。自己相関係数は,ラグが0.4秒までなだらかに下がり,それ以降はr=0.4程度であり,周期は見られなかった。
考察
先行研究では噺家の印象評定値(野村・ヒュース, 投稿中b)は,それぞれ4.62(1.06),6.04(0.58),5.26(0.94)であった。これに対して,大学教員が演者であった本研究では,評定スケールの中央に値が集まったことから,尺度は適切に演者の印象を適切に評価できることが示唆される。また本研究の実験状況では,演者に負荷なくCoPを取得することができた。この手法により,あらかじめ重心動揺データを取得しながら撮影した演者の映像を実験刺激として用いることで,非言語情報との対応関係から,観客が感じる演者の印象を決定する要因を探索する研究が可能になる。
引用文献
野村亮太(2010) あなたにはこの芸人がおススメです 笑いの科学, 2, 57-62.
野村亮太・ヒュース由美 (投稿中a)演者の印象評定尺度の作成.
野村亮太・ヒュース由美 (投稿中b) 噺家の印象を測るものさし―演者の印象評定尺度の作成と印象評定値に観客の特性が与える影響の検討―.
兵頭勇己(2018)バランスWiiボードの重心動揺計ソフトウェア開発 最終閲覧日2019/05/14.
謝辞 本研究は,公益財団法人日本教育公務員弘済会より平成31年度日教弘本部奨励金の助成,ならびに文部科学省科学研究費補助金基盤研究(C),18KT0076の助成を受けた。

キーワード
演者/印象/時系列解析


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