発表

3B-079

ボッチャの体験活動は参加者の障害理解にどう影響するのか

[責任発表者] 西館 有沙:1
[連名発表者・登壇者] 水野 智美:2, 徳田 克己:3
1:富山大学, 2:筑波大学, 3:子ども支援研究所

はじめに
 ボッチャは,重度の脳性まひ者が取り組めるスポーツとして考案された。現在は脳原性であるかどうかにかかわらず,四肢まひのある者が競技に参加できる。ボッチャは青と赤それぞれ6球のボールを投げて,的となる白いボールにどれだけ近づけられるかを競うスポーツである。東京オリンピック・パラリンピックの開催を間近に控え,各地でボッチャの体験会が開催されている。ボッチャの体験活動が多く行われる理由には,年齢や身体の状態に関係なく取り組めること,ルールがわかりやすいこと,屋内外で行えること,用具の貸出を無償もしくは安価に行う自治体や団体があること,コートの準備が比較的容易であることがある。体験の目的はパラ(障害者)スポーツの普及であることが多いが,パラスポーツや障害者への一般市民の理解の促進が含まれることがある。
 一般市民を対象としたボッチャの体験活動は,体験だけをするもの,パラアスリートによる実演の視聴や講話の聴講などの後に体験を行うもの,障害者とともにボッチャを行うものに分けられる。学校教育においては,特別支援学校と小中学校の児童生徒がボッチャを通した交流を行っているケースがある。本稿では,ボッチャの体験が一般の参加者の障害理解にどう影響するのかを,ボッチャや競技者の特性をふまえ,障害理解の発達段階を用いて論じる。

障害理解の発達段階
 徳田・水野(2005)は,障害理解は「気づきの段階」から「知識化の段階」や「情緒的理解の段階」へ移行し,これらを経て「態度形成段階」や「受容的行動の段階」に至ると述べている。障害理解の第1段階である「気づき」とは,意識的に障害者に目を向けることであり,障害者の存在を実感することであると言える。この時に抱くイメージによって障害者への親近性が高まったり,逆に低まったりすることが考えられる。「知識化」とは,障害者と自分との違いや共通点,障害により困ることや障害があってもできること,障害者への接し方などを知る過程を指す。「情緒的理解」とは,障害者がおかれている状況を想像したり,障害者の思いに共感したりする心の動きのことである。高木(1998)は,親近性が高い相手に対して,ひとはより共感しやすくなると述べている。
 さまざまな経験によって,ひとは障害者にネガティブなイメージをもったり,障害者に対してステレオタイプ化された見方をもったり,ゆがんだ障害者観を形成したりすることがある。適正な障害理解の促進を図るためには,教育(啓発)的な活動において,参加者の認識をゆがめないように,ねらいの設定や進め方を考えていかなくてはならない。

ボッチャの体験活動が参加者の障害理解に与える影響
 体験を通しての「気づき」にはまず,ボッチャというスポーツがあることへの気づきがある。また,四肢まひ者の存在に目を向け,彼らが意思や感情をもち,スポーツもする存在であることに気づく機会にもなりうる。しかし,ボッチャを体験しただけでは,ボッチャの存在や「ボッチャは楽しい」といった気づきに限定され,障害者の存在への気づきにはつながらない。残念ながら,現在の体験活動の多くは,ボッチャの体験だけをする内容になっている。
 次に,ボッチャの実演を視聴することと,特別支援学校の児童生徒と共にボッチャを行うこと,それぞれにおいて得られる「知識」や「情緒的反応」とは何であろうか。どちらにおいても,四肢まひ者の「できない姿」ではなく「できる姿」を知ることができることが利点として挙げられる。ボッチャの実演の視聴では,四肢まひ者が「上手にボールを投げる」「ランプ(ボールを投げる際の補助具)を使うなどの工夫をしている」ことを知り,四肢まひがあるから何もできないというわけではないと知ることができる。ただし同時に,「(身体が思うように動かないのに)すごい」「大変な努力をしている」と感じるなど,障害者の努力や能力を過大視する見方が生じうる。他方で,四肢まひ者の姿から「生活は大変であろう」「苦労しているであろう」という漠然としたイメージも形成されると考えられ,これらのフォローをどうするかが課題となる。
 特別支援学校の児童生徒と共にボッチャを行う活動においては,事前に肢体不自由児の普段の生活の様子や感情の表出の仕方,コミュニケーションの取り方について知識を得ているかどうかで交流の質が異なってくると考えられる。東京都教育委員会のHPで紹介されている,ボッチャを通して交流を行った2校の事例を見ると,上記の知識化を事前に図ったケースでは,ゲーム中に障害児に積極的に話しかけたり,障害児の動きの特性を教員に尋ねながらランプの配置を手伝ったりする子どもの姿が報告されている。一方,事前に知識を得なかったケースでは,障害児にかかわる子どもの具体的な姿が報告されておらず,障害児の感情や思いを汲み取ろうとするかかわりが少なかった可能性がある。
 スポーツを介した障害者との交流は仲間意識や協力が生まれやすいこと(Tripp, French & Sherrill, 1995),障害者のイメージがポジティブに変容すること(安井,2004)が報告されているが,スポーツの内容や参加する障害者の特性,交流の進め方によって効果は異なることに留意すべきである。

文献
徳田克己・水野智美(2005)障害理解―心のバリアフリーの理論と実際ー,誠信書房.
安井友康(2004)車いすバスケットボールの交流体験が障害のイメージに与える影響,障害者スポーツ科学,2(1),25-30.

キーワード
障害理解/パラスポーツ/ボッチャ


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