発表

3B-078

子どもをほめるための認知・評価
「してほしい行動」と「してほしくない行動」に対する反応

[責任発表者] 堀(斉藤) 由里:1
1:桜花学園大学

問題と目的
 子どもを「ほめて伸ばす」ということは子育てや教育において必要なことと考えられている。しかしタイミングや具体的な方法を間違えば,ほめはその有効性を失う。そもそも,ほめること自体を多くの人は難しいと感じてはおらず,難しさを実感している人は,ほめの対象の不明確さや相互の捉え方の不一致性を実感している(堀,2018)。
 保育・教育の現場で長年経験を積んできた熟達者と,保育・教育の勉強をしている初学者を対象として,子どもをほめる場面を調査した研究では,初学者は「達成や上達」といった個人内での成長を対象としたものをほめやすく,熟達者は「主体性やありのままの姿」を認めほめる傾向にあった(堀,2019)。「ありのままの姿」というのは,大人からすれば時に叱る対象であったり,想定外の「してほしくない行動」にもなる。
 そこで,子どもの行動(大人にとって「してほしい行動」と「してほしくない行動」)を観察する際,どのような感情反応を抱くのか,SD法や脳活動を指標として検討することを目的とする。

方法
【研究参加者および時期】
 保育者養成課程に在籍する女子学生11名(平均20.7歳)を対象に,2018年10月~2019年1月に研究室において実験および調査を実施した。
【観察対象】
 1歳半の子どもが着替えをしている場面の映像を3つの条件で編集したものをパソコンを通して,研究参加者に観察させた。映像はそれぞれ30秒から構成されており,はじめと終わりの10秒はスカートを脱ぐ場面として共通にしており,真ん中の10秒は,「してほしい行動」として,新しいズボンを履く場面,「してほしくない行動」として,履こうとして玩具で遊んでしまう場面と寝転がって履こうとしない場面の3条件を用意した。
【脳活動の測定】
 研究参加者の前額左右2ヶ所に酸素モニタ装置(NIRO200NX;浜松ホトニクス製)のプローブを装着し,刺激映像を視聴している間の脳活動を測定した。サンプリングタイムは0.5秒であった。刺激映像はカウンターバランスをとってそれぞれの研究参加者に提示した。
【調査内容】
 脳活動測定後,再度刺激映像を見ながら,「履く」,「遊ぶ」,「寝る」条件別にSD法で印象評定を行った(「好きな‐嫌いな」,「人懐っこい‐親近感がない」,「かわいらしい‐にくらしい」)。また自由に内省報告を書いてもらった。

結果と考察
 脳活動の測定値としてoxy-Hbに注目し,ベースライン(スカートを脱ぐ)からどれくらい変化したかを各研究参加者について条件ごとに算出した。この平均変化量値をもとに3(行動条件:履く・遊ぶ・寝る)×2(測定部位:右前頭領域・左前頭領域)の分散分析を行った。その結果,行動条件と測定部位の交互作用が有意傾向を示した(F (2, 20) = 2.73, p< .10)。行動条件によって脳活動が大きく変化するという傾向はみられなかった。
 また,行動条件別に印象評定をした結果を表1に示す。どの行動も概ね高評価であるが,着脱場面において寝転んで着替えないというのは,やや評価が下がると考えられた。内省報告にも「寝る」条件に対し「なかなかズボンを履かないからお母さんは大変だろうと思った」や「自分が親で急いでいる時に,あのような状態になったら嫌だし,どう対応しようかなと思った」など,してほしい行動をしてくれない大変さ,してほしくない行動をする苛立ちなどが評価されていた。
 今回の研究参加者はすべて学生でいわゆる「初心者」段階といえる。熟達者になってくると「してほしくない行動」でさえ,ありのままの姿として認め,ほめることができるようになるが,初心者は,なかなかほめの対象となりえないのではないだろうか。脳活動の結果からは,「してほしい行動=履く」と「してほしくない行動=遊ぶ,寝る」の差が明確に出ていないが,印象評定や内省報告をみると「してほしくない行動」に対しては評価が下がる。このような捉え方・評価の仕方がほめのベースになっていると考えられた。

引用文献
堀由里(2018). 子どもを褒めることの難しさ-教育・保育実習を経験した学生への調査- 日本発達心理学会第29回大会発表論文集
堀由里(2019). 熟達者と初学者の子どもをほめる観点の違い 日本発達心理学会第30回大会発表論文集

※本研究は,科研費(17K13253)の助成を受け実施した。

キーワード
ほめる/評価/脳活動


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