発表

3B-074

科学技術の社会問題に対する大学生の意見文の分析
複数の論点における意見対立を踏まえた意思決定の様相

[責任発表者] 坂本 美紀:1
1:神戸大学

目的
 現代社会には,エネルギー問題など,複数の論点がトレードオフの関係にあり,解決困難な問題が少なくない。科学教育の領域では,科学技術の社会問題に対する意思決定を扱った教育実践や研究が増加している(e.g., Fang, et al., 2019)。本研究は,科学技術の社会問題を対象に,大学生が作成した意見文を分析し,意見対立を踏まえた提案や複数の論点を踏まえた決定など,意思決定の様相を明らかにする。

方法
研究協力者:国立大学に在籍し教養科目を受講している大学生169名(男性108名,女性61名)。
意見文産出課題:電気自動車のメカニズムと普及状況,経済・環境・利便性の3論点における賛否の意見を紙媒体で提示し,社会に向けた説明または提言を行うとの設定で,電気自動車への補助金支給に関する意思決定を自由記述させた。
手続き:授業中に,意見文に求められる論証構造と社会問題の解決で求められる思考の特徴について短い解説を行い,終了後に,自己ペースで個別に課題に取り組ませた。
分析:意見文を分析した先行研究(小野田,2015)を参考に,賛否の主張を除く意見文の記述を,各論点に関わる主張支持記述,対立意見記述,優勢記述または打ち消し,提案の各カテゴリーに分け,以下の定義に従って意思決定のレベルを評定した。レベル1=主張支持または打ち消しのみ,レベル2=特定の論点で主張支持と対立意見を記述,レベル3=複数の論点に言及し,1つ以上の論点で主張支持と対立意見とを記述,レベル4=対立の解消・緩和を目指した提案を記述。

結果
1.賛否の主張と意思決定のレベル
 意見文で主張された意見は,賛成126名,反対42名,その他1名であった。その他を除く意見文について,意思決定のレベルを評価した結果を,主張別にFigure1に示す。χ2乗検定と残差分析の結果,意思決定のレベルは賛否によって異なり,反対群ではレベル4すなわち提案型の意見文が多かったのに対し,賛成群では持論補強型のレベル2と3が多いことが示された。
2.意思決定のレベルと性差
 意思決定のレベルの評定結果を,男女別にFigure2に示す。分析の結果,レベルの分布の性差に有意傾向であり,男性では女性より,レベル1の意見文が多かったことが示された。
3. 対立の解消を目指した提案の産出
 記述された提案の例は「自宅の充電設備を設置する際にかかる費用を,市や町が補助する」「割引制度を設けるなどして公共交通機関の利用を推奨する」といったものであった。提案または賛成のための条件で扱われた観点は,賛成群では16名中14件が利便性の1論点であったが,反対群では約3割が複数の論点を踏まえた提案であり,1論点の場合も,3つの論点に関する提案がほぼ同数産出されていた。

考察
 本研究の協力者が作成した意見文では,主としてマイサイドバイアスを反映した意見文は全体の約16%と少数であったものの,その大半が男性による執筆であった。本研究の主要な結果は,書き手の賛否と意思決定のレベルとの関連であり,賛成群では,単数または複数の論点に関する賛否両論を併記し,賛成立場の優勢性を記述するタイプの意見文が多数を占めたのに対し,反対群では,賛否の対立を解消するための具体的な提案を示す意思決定が多く記述された。また,複数の論点を考慮した提案も,反対群で多く生成された。賛否による意思決定の違いを生み出す心的メカニズムについて,今後さらに検討していく。

引用文献
Fang, S.C., Hsu, Y.S., Lin, S.S. (2019). Conceptualizing socioscientific decision making from a review of research in science education. International Journal of Science and Mathematics Education, 17, 427–448.
小野田亮介 (2015). 児童の意見文産出におけるマイサイドバイアスの低減 教育心理学研究, 63, 121-137.

キーワード
意思決定/意見文/科学技術の社会問題


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