発表

3A-088

先延ばしタイプとネガティブな結果に対する懸念の関連

[責任発表者] 長柄 明:1
[連名発表者・登壇者] 森田 愛子:1
1:広島大学

 問 題
 先延ばしは,将来起きるネガティブな結果 (以下,ネガティブ事象) を予測しているにもかかわらず行ってしまうものとされている (Steel, 2007: Klingsieck, 2013)。長柄・森田 (2018) は,ネガティブ事象としてどのような項目があるかを調べるため「学業場面における先延ばし時に予測されるネガティブ事象」を収集した。その中には「単位を落とす」などのように先延ばしを行った後に生じる事象も「しなければならない,という不安が続く」などのように先延ばし中に生じる事象もあった。これらの事象について,先延ばし時にどの程度懸念しているか,どのような事象について懸念しているかは,先延ばし傾向と関連する可能性がある。本研究では,それらのネガティブ事象の分類を試みるとともに,それらのネガティブ事象を懸念する程度と先延ばし傾向に関連がみられるかを検討する。
 特に本研究で着目するのは,次の2点である。第1に,予測するネガティブ事象に種類があり,その種類によって先延ばし傾向との関連が異なるかを検討する。第2に,一般的な先延ばし傾向との関連に加え,能動的先延ばし傾向との関連に着目する。能動的先延ばしは適応的な先延ばしであるとされているが (Chu & Choi, 2005) ,これはネガティブ事象を予測しているにもかかわらず行ってしまう不合理的な行動とはいえないため,先延ばしではなく「戦略的な遅延」であるという指摘もある (Klingsieck, 2013)。そこで本研究では,能動的先延ばし傾向の強い者は実際にネガティブ事象に対する懸念をあまり持たないという関連がみられるかを検討する。
 方 法
 参加者 大学生191名。
 調査内容と手続き インターネット調査会社に委託して調査を行った。調査は以下の3つから成っていた。(1) GPS (General Procrastination Scale) 日本語版 (林, 2007),13項目5件法。日常的にみられる先延ばし行動をどの程度行うかを測定する尺度 (項目例: いつも「明日からやる」といっている)。(2) APS日本語版 (米本・大蔵, 2013),16項目7件法。能動的に先延ばしを行う程度を測定する尺度。「プレッシャー選好」「結果満足」「意図的決定」「時間管理」の4因子から成る (項目例: なにかをするとき,たびたび遅れる (時間管理因子,逆転項目))。(3)ネガティブ事象想定項目(長柄・森田,2018),28項目 (項目例; 「しなければならない」という不安が続く)。各ネガティブ事象項目について,まず先延ばし時にその項目を想定しうるかを尋ね,想定しうる場合にはその事象が気になる程度 (懸念度) を「全く気にならない」から「とても気になる」の5件法で尋ねた。
 結 果
 まず,ネガティブ事象28項目について探索的因子分析 (最尤法,プロマックス回転) を行った。スクリープロットの推移から1因子構造が妥当であると判断された。クロンバックのαを算出したところ,α係数は.95と高い値を示した。そこで,各個人について,28のネガティブ事象項目のうち想定した項目の懸念度の平均得点を算出してネガティブ事象懸念度得点とした。補足的に,想定しなかった項目の得点を0とした場合の28項目の懸念度の合計得点も算出した。
 次に,ネガティブ事象懸念度の平均得点とGPSの平均値,APS全項目の平均値,およびAPSの下位因子の関連を検討した。相関分析の結果,ネガティブ事象懸念度とGPSとの間には有意な正の相関,APS全項目の平均値および下位因子との間には有意な負の相関がみられた。(Table 1)。 なお,合計得点を用いた場合の結果もほぼ同様であった。
 考 察
 ネガティブ事象28項目について,1因子構造であり内的整合性が十分高かったことから,ネガティブ事象の種類によって,気になる程度が異なるという分類はしにくいことがわかる。したがって,「どのようなネガティブ事象を気にするか」によって参加者をタイプ分けできるわけではなかった。むしろ,どのような種類のネガティブ事象であっても,気にする人は気にし,気にしない人は気にしないという一貫性があることがわかる。したがって,種類によらずネガティブ事象を懸念する程度は一種の個人特性と捉えることができると考えられた。
 次に,ネガティブ事象懸念度と先延ばし傾向との関連を検討した結果から,一般的先延ばし傾向(GPS)が強いほどネガティブ事象について懸念することがわかった。これは,先延ばしをしやすい者はネガティブ事象を予測しているという従来の見解と一致する。そして能動的先延ばし傾向(APS)が強いほどネガティブ事象について懸念しないことも明らかになった。これは,能動的先延ばし者はネガティブ事象を予測していないというKlingsieck (2013) の指摘と一致する結果である。したがって,やはり能動的先延ばし者が行っている行動は従来の先延ばしとは異なる「戦略的な遅延」であるとみなすのが妥当であると考えられた。

キーワード
先延ばし/能動的先延ばし/ネガティブな結果


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