発表

3A-081

「数学嫌い」になるのはなぜか

[責任発表者] 犬塚 美輪:1
[連名発表者・登壇者] 佐宗 駿#:1, 中村 海斗#:1
1:東京学芸大学

問題と目的
数学嫌いの理由がわかれば,数学教育における生徒への教授法も工夫できる.数学の好悪の理由についての研究の中で,内田・守(2012)では,数学嫌いに対する顕在・潜在的意識の違いが示唆されている(以降,それぞれを顕在的数学嫌い,潜在的数学嫌いと呼ぶ).そこで本研究では,顕在的・潜在的数学嫌いに着目し,そこに影響する要因を以下の観点から検討する.
まず,女子が数学に否定的な態度を取りやすいことが知られている(森永,2017)ため,数学嫌いが「ジェンダーステレオタイプ」に影響を受けると考えられる.そのため,ジェンダーステレオタイプが顕在的・潜在的数学嫌いへの正の影響を与えると考えられる.
また,粟津・竹内(2007)において「数学は難しい」等の「数学への苦手意識」に関する6項目と,「数学は,問題が解けると嬉しい」等の「正解への喜び」に関する2項目,「数学は,正解かどうか心配だ」という「正解への不安」に関する1項目からなる「数学に対するイメージ」が顕在的数学嫌いと関連していることが指摘されることから,これらの要因を取り上げ,潜在的数学嫌いも含めて関連を検討する.
加えて,数学授業内の経験,特にアクティブラーニング的な学習活動の経験の中で,他者の発表を聞く,および自分自身が発表をすることにより数学内容の整理がされる.そして,それに伴い数学に対する認識が変わるのではないかと考えられる.そこで,アクティブラーニング的な学習活動の顕在的・潜在的数学嫌いへの影響も検討する.
方法
対象:東京学芸大学の学部生・院生 計102名(男性48名,女性54名)
材料と手順:まず,「潜在的数学嫌い」測定のため,潜在連想テストの一種であるFUMIEテスト(Mori,2006)を実施した.その後,質問紙への回答を求めた.用いた質問紙のうち,「顕在数学嫌い」と「数学に対するイメージ」の項目は,粟津・竹内(2007)を用いた.「ジェンダーステレオタイプ尺度」は伊藤(2001)をもとに項目を作成し,「アクティブラーニング的な学習活動の経験」は,溝上ら(2016)をもとに項目を作成した.いずれの項目も5段階評定で回答を求めた.
結果
「数学に対するイメージ」の項目への回答に因子分析(主因子法,プロマックス回転)を行った.固有値の減衰状況から第2因子まで求め,「数学は,正解するまでが大変だ」等からなる第1因子を「数学困難イメージ」,「数学の問題に正解すると達成感がある」等からなる第2因子を「数学の楽しさ」と名付けた.
「アクティブラーニング的な学習活動の経験」の項目について因子分析(主因子法,プロマックス回転)を行った結果を基に信頼性分析をしたところ,一因子と判断できたが,アクティブラーニングにおけるどのような活動が数学に対する感情に影響を与えるのかを検討するため,項目の内容と相関関係から3つの下位尺度に分類した.それぞれ「議論や発表を通じて新しい物事の見方に気づく」等からなる「授業理解(α=.853)」,「議論や発表の中で自分の考えをはっきり示す」等からなる「考えの伝達・精緻化(α=.768)」,「クラスメイトの異なる意見を知って刺激を受ける」等からなる「意識の変容・メタ認知(α=.609)」と名付けた.
「ジェンダーステレオタイプの項目」は伊藤(2001)における性同一性尺度のうち床効果を示した「男性は得意なスポーツが1つはあって当然である」「女性にとって裕福な結婚は何事にも変えられない」の2項目を除外した。因子分析の結果一因子を採用し,「性別固定観念(α=.770)」と名付けた.
これらの因子を潜在変数とし,共分散構造分析を行った結果を図1に示す.CFI=0.939, RMSEA=0.057, SRMR=0.083であり良い適合を示した.点線は負のパス,実線は正のパスを示し,太線は有意なパスを表す.
考察
分析の結果から,「数学困難イメージ」が「顕在的・潜在的数学嫌い」の両方に影響し,また,「数学困難イメージ」には授業内における「考えの伝達・精緻化」が影響していることも示された.このことから,集団授業で学習者同士の意見交換の機会を設けることで数学の正解に至るまでの問題解決過程が大変だという困難感を抑制することができ,それがさらに顕在的・潜在的数学嫌いを抑制することが示唆された.
さらに「性別固定観念」が潜在的数学嫌いに対して正の影響を与えていることも明らかとなった.このことから,ジェンダーステレオタイプは意識的ではなく無意識のうちに数学を嫌いにさせる要因だといえる.そのため,授業者は学習者に対して数学の成果の原因を性別に帰着させるような言い方を控えること,同時に数学は誰にでも理解することができるという数学に対する前向きな働きかけを日頃から行うなどの配慮も数学嫌いの改善に繋がる可能性がある.

キーワード
数学嫌い/潜在連合テスト/数学学習に関する経験


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