発表

3A-080

高校教員は,社会性と情動のスキルをどのように育もうとしているのか?

[責任発表者] 神崎 真実:1
[連名発表者・登壇者] 鈴木 華子:2
1:立命館グローバル・イノベーション研究機構, 2:立命館大学

 問題と目的
 本研究の目的は,高校教員が生徒の社会性と情動のスキルをどのように育もうとしているのか,その実践の一端を明らかにし,日本の学校文化に根ざした社会性と情動のスキル育成について検討することである。不確実なことの多い社会を生きていくにあたって,社会性と情動の学習(Social and Emotional Learning; SEL)は,認知的スキルに劣らず重要な役割を果たす。諸外国ではSELプログラムが開発され,目標設定や葛藤の解決,学業成績に一定の効果がみられている(Durlak, Weissberg, Dymnicki, Taylor, & Schellinger, 2011)。一方,日本ではSELという枠組みが普及しておらず,プログラムを開発する段階にはなっていない。日本の学校教育文化とフィットするプログラムを作るには,まず,教員らの取り組みを知ることが重要であろう。今回,高校教員を対象として,SELを形成する領域――自己への気づき,他者への気づき,自己のコントロール,対人関係,責任ある意思決定(CASEL,2019)ごとに,その実践内容を尋ねた。
 方法
 調査概要 株式会社マクロミルが提供するプラットフォームQuestantを用い,2018年12月~2019年4月にウェブ調査を行った。参加者募集は,スノーボールサンプリングと教師対象の講演会で行った。調査協力者は,高校教員17名(私立通信9,私立全日4,公立全日3,公立通信1)であった。
 質問項目 (1)回答者基本情報(2)勤務校に関する情報(3)教員のSELスキルに関する自由記述(4)生徒のSELスキルを育む方法についての自由記述であった。
 分析 質問項目(4)の回答を資料として,オープンコーディングを行った。得られた回答の分量は1領域につき800字前後と少なかったこともあり,今回の分析では概念生成よりも,地の文に近い形でまとまりを見出すことを重視した。
 なお,本研究は立命館大学「人を対象とする研究倫理審査委員会」の承認を受けて実施されたものである(衣笠-人-2018-57)。
 結果と考察
 地の文またはその要約を「」で,まとまりを【】で示す。
 自己への気づきを育む方法として,2つのまとまりが見出された。【活動や人生の振り返りをサポート】「生徒自身がやってきたこと・強みの理解」,「自己分析を行う」,「行事や活動,学習の振り返り」に関する言及が多かった。これらは,「文章化」によって行われ,「信頼関係」を築いて教員が「共に取り組むもの」とされていた。【活動参加・体験を通した気づきの促し】「正解のない問いに皆で取り組む」,「偏見・先入観に気づかせる」,「やってみたいことをやらせてみる」という,活動参加を通して気づきを促そうとする実践も報告された。
 自己のコントロールを育む方法として,3つが見出された。【生徒の困り感の聞きとり】「面談を行う」ことで,「生徒の困難感・課題感をアウトプット」させ,「解決法を考える」というアプローチが最も多く言及された。この方法は,生徒自身が困っている時でないと有効ではないとの意見もあった。【自己管理と目標設定】「アンガーマネジメント」「ソーシャルスキルトレーニング」「時間厳守の指導」など,生徒の自己管理を促す指導と考えられるものが挙げられた。また,「学習や部活動での目標設定」と「振り返り」が言及された。【視野を広げる授業の展開】「意見の分かれるテーマを扱い,立場の根拠を丁寧に調べていく学習」「アクティヴラーニング」「情報を吟味して複数の視点をもつ」など,生徒の視野の拡張を目指すものが記述された。
 他者への気づきを育む方法として,3つが見出された。【身近な同級生との交流】「クラス,部活動や日々の生徒指導」の言及が多く,内容としては「違う文化で育ってきた生徒との交流」を書く者もいれば,自文化の省察に言及する者もいた。【授業で幅広い生き方・考え方を伝える】様々な教科を通して,「自分とは異なる生き方・考え方を伝える」ことが言及された。【自尊と他人の尊重の関係】実践内容にとどまらず自他に関わる認識についても言及されており,「他者の尊重と自分の尊重は紙一重であること」を伝える立場と,「尊重・共感される経験の積み重ねが他者への共感を生む」とする立場が示された。
 対人関係とコミュニケーションスキルを育む方法は,2つ見出された。【生徒同士のグループワーク】「様々な学校行事」「グループワーク」を通して,「1人では解決できないことを解決」「実現可能な目標の共有」が目指されているようであった。この時,教員は「指導しない」で「ファシリテート」に徹することが重要との考えも示された。【大人との関わりを広げる】「集団の関わりが難しい」生徒の場合,教員が「個々人と向き合い」,「自分の思いを言うように問いかける」,そして「大人との関わりから広げていく」とのアプローチが挙げられた。
 意思決定を育む方法については,まとまりが1つのみであった。【自分で選ぶ経験】「ある程度は教員が選択肢を示」しながら,「自己決定体験」を積むことが重要と考える立場と,「反射的に選ばずに選択肢を考えさせる」,「選択肢を比較・省察する」ことが重要と考える立場とがあった。
 当日は,既存のSSTプログラムも参照しながら,結果の細部を補足し,日本の学校文化に根ざした社会性と情動のスキル育成について考察する。
 文献
Durlak, J. A., Weissberg, R. P., Dymnicki, A. B., Taylor, R. D., & Schellinger, K. B. (2011). The impact of enhancing students’ social and emotional learning: a meta-analysis of school-based universal interventions. Child Development, 82(1), 405-432

キーワード
社会性と情動の学習/高校/教育実践


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