発表

2D-079

挿絵の付加が物語文読解のオンライン処理に及ぼす影響

[責任発表者] 和田 裕一:1
1:東北大学

目 的
 小説等の物語文における挿絵は,作品場面の情景を読み手がイメージしやすくなるような絵画的情報を表現する。和田(印刷中)は,動詞分類課題を用いて,物語文の挿絵の有無によって状況モデルの構築に寄与する状況的次元に差異がみられることを明らかにした。この知見は,挿絵の効果が文章読解における状況モデルの構築や更新といった記憶処理のプロセスに作用することを示唆する。では,挿絵の効果はテキストに対する読み時間や注視時間といったオンライン処理を反映する行動指標にも何らかの影響を及ぼすのであろうか。
 挿絵の効果の一つに,読み手の動機づけを高める作用が考えられる。これに基づくと,挿絵が付加されたテキストは挿絵のないテキストと比べて読み手の注意をより惹きつけることで読み時間が長くなることが予想される。一方,McCrudde et al.(2011)は,テキストに対する図の付加はオンライン処理には影響を及ぼさずに文章内容の記憶成績を向上させる効果をもつと主張している。ただしこれらの知見は説明文の読解から導かれたものであり,物語文の読解における挿絵の効果に関してはあまりよくわかっていない。そこで本研究では,挿絵の付加が物語文読解のオンライン処理に及ぼす影響について,アイトラッキングを用いて検討した。
方 法
 実験参加者: 成人95名。
 刺激:物語文の文章素材として,「遠い山脈」(作・杉みき子, 絵・吉實恵, 東京書籍中学校国語1年「新しい国語1」, pp.28-34, 2048字)を用いた。本作品では文章全体で2点の挿絵が用いられていた。
 条件:実験では,挿絵を含む文章を読む群(以下,挿絵あり条件とする)(n=45)と,挿絵を含まないテキストのみの文章を読む群(以下,挿絵なし条件とする)(n=50)の2水準を設定し,参加者をランダムに割り当てた。挿絵あり条件では挿絵を含む文章を提示した。挿絵は色つきのものを作品本来のレイアウトとなるべく同じ位置になるように配置した。挿絵なし条件では挿絵を含まない文章を提示した。
 手続き:文章素材の提示は1ページごとに行われ,実験参加者は1ページを読み終えるとスペースキーを押下して次のページに進んだ。を読む際の視線をアイトラッカー(Tobii TX300,250 Hz)により計測した。一度ページを送ると前のページには戻ることができないことをあらかじめ教示した。すべてのページを読み終えると,参加者はテキスト内容に関する理解度テスト(14点満点)を行った。
結 果
 挿絵あり条件(130.9秒)と挿絵なし条件(128.1秒)における文章の読み時間に差異があるかについて,対応のないt検定を実施した。その結果,両条件の読み時間に有意な差はみられなかった(t(93)=0.33, n.s., d=0.06)。次に,文章全体を挿絵の内容に関連のある領域(以下,関連領域)と関連のない領域(無関連領域)に分けて,読み時間全体に占める関連領域の読み時間割合(%)を算出し,挿絵の有無の影響について検討した。その結果,挿絵あり条件(54.9%)では挿絵なし条件(51.3%)と比べて,関連領域の読み時間割合が大きいことが示された(t(93)=3.31, p<.001, d=0.67)。
 挿絵あり条件と挿絵なし条件における理解度テストの成績を比較したところ,得点差は有意であり(t(93)=2.62, p<.05, d=0.53),挿絵あり条件の理解度テストの成績(11.8点, SD=2.2)が挿絵なし条件(10.7点, SD=2.0)と比べて高いことが認められた。挿絵あり条件における挿絵に対する注視時間の平均(SD)は1.77 秒(1.63)であり,約半数以上の読み手の挿絵に対する注視時間が1.5秒以下であった。挿絵あり条件における挿絵に対する注視時間と理解度テストの成績に関して,文章全体の読み時間を統制変数とした偏相関を調べたところ,両者の間に有意な相関はみられなかった(r=-.22)。
考 察
 挿絵の付加はテキスト全体の読み時間に影響を及ぼさなかったが,挿絵あり条件では挿絵なし条件と比べて,関連領域に対する読み時間が長くテキスト内容の理解度が高かった。挿絵に対する注視時間は平均2秒程度であり,注視時間と理解度テストの成績との間に関連は認められなかった。挿絵は文章の内容理解に必ずしも必要不可欠な情報ではなく,読み手も明示的には積極的に注視しないが,その存在は関連するテキスト内容に対する注視を促し,内容理解にも促進的に作用すると考えられる。

引用文献
McCrudden, M.T., Magliano, J. P., & Schraw, G. (2011). The Effect of Diagrams on online reading processes and memory. Discourse Processes, 48, 69-92.
付記 本研究の一部は著者の指導のもと劉エン氏が作成した東北大学情報科学研究科平成30年度修士論文の内容を加筆修正したものである。記して感謝の意を表したい。

キーワード
挿絵/物語文読解/オンライン処理


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