発表

2D-077

強いこだわりを持った現職大学院生の変容(2)
―授業の見方の変容―

[責任発表者] 道田 泰司:1
1:琉球大学

目 的
 現職教師は,どのような経験を経て力量を形成しているのであろうか。道田(2019: 日教心)では,研究テーマに強いこだわりを持っていた現職院生が,指導と過去経験,院での授業や指導,実習経験などが有機的に結びついたことでこだわりを捨て,課題を深掘りして本質的なテーマにつながった。変容は(1)研究課題の深掘り,(2)授業の見方,(3)授業のつくり方(指導観)に見られたが,本稿では(2)を報告する。
方 法
対象教諭は中学校家庭科教師(教職歴20年)。指導観の変容を感じたため研究を開始し,対象教諭と相談しながらデータ収集(対面やメールでのインタビュー,実習記録簿参照)と文章化を行った。
結 果
 対象教諭にとって,授業を見るとは教師を見ることであった。参観シートを使って,授業における基本事項(支持的風土,授業マネジメント)ができているかを見る。参考にできる手立てがないかを見る。子ども一人をターゲットに見る見方はしていなかったし,そうすることに現場教員は抵抗があると経験上感じている。たとえばある教師が校内研主任として子どもを見ることを提案したところ,先生方の反感を食らい,できなかったという。子どもを見る経験をしていないので,何を見たらいいかも分からない。見方を学んでいない。見るべきは教師。それが対象教諭の思いであり,こだわりといえる。
 1年前期の小中学校観察実習で個を見ると言われ,正直びっくりした。どちらの学校でも,参観者が一人の子を追いかけて見ており,こういう参観の仕方があるんだと新鮮だった。研究授業後,参観者が生徒にインタビューをする学校もあり,衝撃だった。
 実習記録簿には,「おしゃべりは多いがグループリーダー的な生徒」,「話し合いが積極的に行えない生徒(事前に教科担任に確認)」の様子が記録され,そこから自分の学習指導を振り返っていた。ただしこの見方は7回中2回しか行われず,授業では教師を見ることにこだわっていた。
 9月の公立学校観察実習(10日間:裁縫実習)では,筆者が参観した8日目まで,授業者を見ていた。そこで筆者が見取った数名の生徒の様子を話したところ,記録簿に「授業の見方を教えてくれた」「授業者の様子を観察してしまいがちだが,『学習者研究』という言葉を知り,特定の生徒を見るよう努めた」と書かれた。翌日(最終日)には,意欲がないように見えた女生徒の様子が記録されていた。そうやって意識的に見ることで子どもの変化が見えたり,教師の説明が伝わっていない姿や子どもの活動状況が見えたりして,いいなという感想を持っている。
 11月には,勤務校で自主的に4回(7時間)の実習を行った。初日の授業後,対象教諭が気になったのは,考えさせる時間が足りなかったこと。それは指示があいまいであったためと筆者は考え,特定グループの生徒の動きの実際を伝え,動きの遅い特定の子を念頭に指示の言葉をイメージするよう指導した。また,授業者が気になる生徒についても,寝てはいるが話を聞いているようなので,授業開始前などに個人的に声掛けしてはどうかと提案した。次回にそのようにした結果,気になる子の授業参加が増え,それがこの実習で一番の収穫と対象教諭は語った。ここで初めて,子どもの様子を見取ることが,具体的な手打てにつながっている。
 2月の公立学校教壇実習(10日間:裁縫実習)では,気になる生徒がいるクラスの授業参観を行い,日常的にも声かけを行っている。教科担任の授業を参観するときも,動きの悪い生徒の様子を観察し,それがほぼ毎日記録簿に記載されている。ただ自分が授業者になったときは,気になる子を中心に,生徒の手元(作業の進行状況)ばかりを見ていたため,活動に乗れず孤立している生徒を見落としていることが,筆者から見て取れた。そこで,全体を俯瞰して見ること,教師が手助けするのではなく生徒同士で問題を解決できるような声かけをするよう指導した。それを意識した結果,生徒全体の様子が見え,生徒同士をつなぐことで教師への質問が減り,生徒の理解も高まり,作業進行も遅れを取り戻せた。このように,生徒が教師に頼りすぎずに裁縫実習を進めることができるような見取りと声かけができたことが,この実習一番の収穫であった。それには,自分に見えていないものを指摘してもらえるのがありがたかった。
 なおこの後,作業中心の他教科授業を観察したとき,以前の自分と同じように教師が手元を見ており,生徒も教師を頼って作業が進まないという光景が見られ,今回得た見方ややり方が有効であることを実感している。
考 察
 授業の見方は,長年の経験がこだわりとなるせいか,容易に変容するものではない。対象教諭は,前期の観察実習で意識的に行えたのは7回中2回であった。9月実習で促されてそうした結果,多少見えるものがあった。11月実習では見取りに基づいた手立ての効果を実感した。2月実習では全体を俯瞰して子ども同士をつなぐことを意識した結果,作業状況にも学びの状況にも効果が表れ,安定的な変容につながっている。
 個を見つつ俯瞰すること,そこで見えてきたものを授業に活かすことができるためには,他者とともに授業を見て語り合ったり,見取りを基に手立てを打つことの有用性を実感したりする経験を繰り返すことが必要であったといえるかもしれない。

*本研究はH28-H31科研費(基盤C 16K04306 研究代表者:道田泰司)の助成を受けた。

キーワード
教師の成長/指導観/授業実践


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