発表

2D-075

授業への認知と感情の個人内相関における学業成績の個人差

[責任発表者] 山口 剛:1
[連名発表者・登壇者] 押尾 恵吾:2
1:日本工業大学, 2:東京学芸大学

  学習者は授業を通して,ただ教授・学習内容を習得しているのではなく,授業そのものに対して「普段の生活で役立てることができる」や,「内容が難しい」などといった主観的な認知をもつ。そして,このような認知は,授業に対して興味をもつ,あるいは退屈さを感じるといった授業に関連する感情との関連が示されている(Tanaka & Murayama, 2014)。授業中の興味/退屈といった感情は,学業成績との関連が示されており,特に授業に対して退屈を感じた学習者ほど成績が低下し,さらに退屈さを感じるといった負の循環が報告されている(Pekrun, et al., 2014)。
  このように,授業に対する認知は学業成績に影響する可能性がある。一方で,授業への認知と感情との間に生じる個人内相関が,学業成績によって異なるのかは明確でない。例えば,主観的な難しさが高い授業でも退屈さを感じないような学生は成績が高いといった個人差がある場合,学習者の難しさの認知を低める介入も検討すべきであろう。そこで,本研究は最終的な学業成績(期末試験)を調整変数として,授業への認知と感情との間にみられる個人内相関に,学業成績による個人差がみられるか検討する。
方法  大学生95名を対象に,半期の授業を通して測定が行われた。初回の授業において授業内容や期末試験の出題形式が説明された。その後,研究の主旨が説明され,同意が得られた。最終的に,同意が得られなかった者,10回の測定中に4 回以上欠席した者,期末試験を未受験の者が除外され,88名(うち,女性15名)が分析対象者となった。
  2回目以降の各授業では,終了10分前にその時間の感想と伴に,授業に対するアンケートが実施された。調査項目はTanaka & Murayama(2014)と同様に,授業への興味(inter- est),授業への退屈(boredom),授業への期待(expectan- cy),授業の有効性(utility),授業の難しさ(difficulty)が各2項目であった。それぞれ「1. 全くあてはまらない」から「5. とてもあてはまる」の5件法で測定された。
  期末試験は100点満点で,三つの出題形式で構成された。一つ目は空所補充型で,説明文中の虫食い部分に適切な語の挿入が求められた(5題出題, 1題あたり3問, 合計30点)。二つ目は記述式で,ある理論や概念の説明が180字以上200字以内で求められた(5題出題, 合計30点)。三つ目は問題解決型で,ある状況設定に対して設定された理論等を用いて実践例・解決例を記入するよう求められた(3題出題, 合計40点)。
結果  まず個人内相関について,興味は期待(.25)と有効性(.57)との間に正の相関関係が示されたが,難しさとは相関関係がみられなかった(.02)。退屈は有効性との間に負の相関関係が示され(-.43),その一方で,期待(-.08)や難しさ(.09)とは相関関係がみられなかった。なお,興味と退屈の間には,興味が高かった授業回ほど退屈さが低いといった負の個人内の相関関係がみられた(-.51)。級内相関係数はそれぞれ.39から.50であった。
  次に,興味と退屈をそれぞれ従属変数として,期待,有効性,難しさを独立変数とした階層線形モデルによる分析を行った。その結果をTable 1に示す。有効性が高かった授業ほど興味も高く(0.32),退屈が低く評価されていた(-0.19)。また,期待が高い場合も興味は高く評価された(0.12)。この線形関係について,参加者による個人差はみられなかった(Table 1中のVarianceの箇所)。なお,このような個人内の関係性が最終的な学業成績で異なったか検討したが,AICやBICを比較した結果,いずれのテスト形式の得点を調整変数として投入しても,モデルの改善はみられなかった。
考察  本研究において,興味に対しては期待と有効性が,退屈に対しては有効性がそれぞれ高い授業で変動を示していた。この傾向はTanaka & Murayama(2014)と同様である。また,その傾向は学業成績の高低での違いはみられなかった。そのため,たとえ学習者で習熟度が異なる場合でも,授業への認知で引き起こされる感情に一貫性があるといえるだろう。
  一方で,難しさからの影響がみられなかったことや,退屈に対する期待の影響がみられないなど,異なる傾向もみられた。今後は,対象科目のカリキュラム上の性質や,学生の学習行動なども合わせて検討すべきである。
引用文献Pekrun, R., et al. (2014). Journal of Educational
    Psychology
, 106, 696-710.
Tanaka, A., & Murayama, K. (2014). Journal of
    Educational Psychology
, 106, 1122-1234.

キーワード
興味/退屈/授業


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