発表

2C-063

モラルシンキング概念構築のための探索的研究(1)
中学生版モラルシンキング尺度の開発

[責任発表者] 池田 まさみ:1
[連名発表者・登壇者] 高比良 美詠子:2, 森 津太子:3, 宮本 康司#:4
1:十文字学園女子大学, 2:立正大学, 3:放送大学, 4:東京家政大学

【問題と目的】
 小中学校において「特別の教科 道徳」(以下,道徳科と言う)が設置されることになり(文部科学省,2015),小学校では2018年,中学校では2019年4月から「考え,議論する」道徳の授業が始まっている。道徳科が特別の教科として設置された背景には,子どもたちが日常生活の中でいじめなど現実の問題に対応できる資質・能力を育成するねらいがある。新学習指導要領では道徳教育の目標を「自己の生き方を考え,主体的な判断の下に行動し,自立した人間として他者と共によりよく生きるための基盤となる道徳性を養うこと」として,教育現場ではその目標を全うすべく,道徳科の中で「考え,議論する」授業を実現しなくてはならない。しかし,道徳教育を専門とする教員はほとんどいないこともあり,現場では,どのように授業を組み立て評価するか,授業方針が立てにくいという現状がある。また,「道徳性」に対して,指導者間で共通理解が得られないこともあるだろう。
 そこで本研究では,新学習指導要領に照らし,新しい道徳科における「道徳性」が特に「思考」の側面に関わることを重視し,道徳性を単にモラルではなく,「モラルシンキング」として捉え直すことを提案する。その上で,モラルシンキングの資質・能力がどのような要素で構成され,またどのような資質・能力と関係しているのか,その概念構築を図ることを研究目的とする。具体的には,中学生の調査データを基に,(1)モラルシンキング尺度の開発,(2)モラルシンキングとクリティカルシンキングの因果分析,(3)モラルシンキングとキャリア基礎力の因果分析,を行う。本稿では (1)~(3)の一連研究のうち,(1)尺度に関して,予備調査(池田・森・高比良,2018)を基に2018年に実施した本調査の結果について報告する。自己評価式尺度(中学生版)の開発は,モラルシンキングの資質・能力の一端を明らかにできると同時に,道徳教育における「PDCAサイクル」を実現する上で,例えば,ルーブリックの作成や尺度の定期的な使用による生徒個々人のポートフォリオとして活用できる可能性がある。
【方法】
 調査対象 都内私立中学校に通う女子中学生1~3年生,計503名(平均12.92歳,SD=0.81歳)。
 調査時期 2018年4月17日~26日
 調査内容 道徳教材「私たちの道徳 中学校」(文部科学省,2014)の4つのテーマのうち「社会・集団との関わり」の学習項目をすべて抜き出した全41項目(池田ら,2018)を用いた。予備調査では4件法であったが,回答者の対象年齢が中学1年から3年生まで拡大したことなどを考慮し,本調査では6件法を用いた。妥当性検証には,(a)青年期クリティカルシンキング尺度と(b)キャリア基礎力尺度を用いた。(a)は「探究心」「他者理解」「自己調整」の3因子16項目,(b)は「目標志向」「状況理解」「創意工夫」の3因子22項目で,いずれも中高校生を対象とした調査(池田他,2015)において各因子ともに高い信頼性係数を得ている。
【結果と考察】
 探索的因子分析(最尤法,プロマックス回転)を行い,対角SMC平行分析,MAP,固有値1以上を基準として4因子を抽出した。4因子の中で因子負荷量.39以下の2項目を削除して再分析した結果,1回目と同様の因子構造となった。本結果は,予備調査で抽出された5因子のうち4因子に相当すること,また道徳科で設定された学習テーマ(文部科学省,2014)に即した構造をもつことが明らかとなった。
 第1因子は“日本の伝統と文化を守るために日本人としてできることを考える”“よりよい社会のために,将来自分に何ができるかを考える”など全14項目で「貢献する個人」,第2因子は“対立する意見にも耳を傾ける”“ 誰に対しても公平に接する”など全15項目で「公正な個人」,第3因子は“人の道にはずれた行動を見たときは異議を唱える”“自分が所属する集団をよりよくするために自分に何ができるかを考える”など全7項目で「責任ある個人」,第4因子は“自分を育ててくれている家族に感謝する”など全3項目で「家族を想う個人」と命名した。Table 1に示す通り,各因子の信頼性係数は高い値であり,また,尺度(a)と(b)のそれぞれ6因子の間に有意な正の相関が確認された(rs=.38~.83,ps<.01)。
 一連の研究では,尺度開発に続き,モラルシンキングとクリティカルシンキングおよびキャリア基礎力との関係について,それぞれの因果分析の結果を基にモラルシンキングの概念構築を図る。同時に,これまで著者らの開発した認知体験型のクリティカルシンキング教材と併せてモラルシンキング育成のための効果的な教材・教授法開発等を進めていく。
【引用文献】
池田・森・高比良(2018).自己評価式モラルシンキング尺度(中学生版)の開発―考え,議論する道徳:社会・集団とのかかわり編― 日本教育心理学会第60回総会発表論文集.
【付記】
一連の研究は,JSPS科研費17K01091(基盤C)の助成,および十文字学園女子大学研究倫理委員会の承認を得て実施した。

キーワード
モラルシンキング/クリティカルシンキング/キャリア基礎力


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