発表

2C-062

数学に対する態度の国際比較
日本人だけが数学を忌み嫌うのか?

[責任発表者] 三浦 麻子:1
[連名発表者・登壇者] 犬塚 美輪:2
1:大阪大学, 2:東京学芸大学

問題と目的
 日本人は,数学的素養が比較的高いにも関わらず数学に苦手意識や嫌悪感がある,と巷間よく言われる.一方で,複雑化する一方の社会の様々な問題解決に際して,数理科学や統計科学を基盤とする「データサイエンス」の重要性が認識され,そのための人材育成が喫緊の課題として叫ばれている.その現場から,数学に対するネガティブな態度が日本社会に蔓延していることが,高いはずの数学的素養を活用する足かせとなり,ひいてはデータサイエンスへの適切な理解を妨げ,普及の障害となっている,との声があがっている.
 実際,日本人の数学的素養は国際的に見て高いレベルにある.PISA(OECD生徒の学習到達度調査;高1生対象)では,日本人の成績は一貫して高く,2015年調査での数学リテラシー(PISAの定義は「様々な文脈の中で数学的に定式化し,数学を活用し,解釈する個人の能力」)の高さは72カ国中5位であった.一方で,日本人の数学に対する苦手意識や嫌悪感も国際的に見て高いレベルにある.2012年に同じくPISAで実施された質問紙調査では,数学に関する動機づけや自己信念を5側面から問うているが,日本の学習者の得点はすべての側面においてOECD平均よりもネガティブであった(国立教育政策研究所,2013).こうした傾向はTIMSS(国際数学・理科教育動向調査;小4児と中2生対象)で見られ,また,日本だけではなく韓国や台湾など東アジア各国にも共通しているが,その原因は判然としていない(Leung, 2006).
 しかし,動機づけや自己信念と数学リテラシーの間には,日本においても,他の調査参加国とほぼ同様に,正の相関(|r| = 0.21~0.58; PISA2012)が見出されている(国立教育政策研究所,2013).こうした分析結果が示すのは,冒頭のような場面で日本人の数学に対するネガティブな態度が問題になるとすれば,懸念すべきは国際標準に応じた数学リテラシー(の高さ)との関連の希薄さ,あるいは逆相関ではなく,その絶対的なレベルの低さである,ということだろう.言い方を変えれば,これは数学能力の問題ではなく心理的な問題であり,何がそれを作り出しているのかを追究する必要がある,ということになる.
 本研究の目的は,こうした問題意識のもと,まず,日本人の数学に対する態度が,数学を現に学習している児童・生徒のみならず,一般成人においてもネガティブかどうか,あるいはそれは日本に,そして数学にユニークなものかどうかを,国際比較調査によって検討することである.本発表では,日米で実施したWeb調査の結果を報告する.
方法
調査項目
 学業全体,理系科目,数学,文系科目,国語について,得意度と現在の生活における有用性を1-5の5件法で評価させ,また,それぞれについて高校までの学業における成績の相対的な良さ,好き嫌い,負担度を問うた.また,学歴,文系/理系の自己評価,学歴の重要性評価なども問うた.さらに,小中学校程度の数学の問題を3つ出題した(3肢+わからないからの1肢選択).また,犬塚(2016)の数学信念質問紙(1-5の5件法;25項目)も問うた.英語版作成に際しては,まず1名の協力者が日本語版を翻訳し,それを別の協力者1名が逆翻訳したものを元の日本語版と照合して,第1著者と逆翻訳者が協議・調整した.
実施概要
 日本:2019年2月下旬に,Web調査会社クロス・マーケティング登録者を対象に実施した.米国:同年3月上旬にクラウドソーシングサービスProlific.ac登録者のうち米国在住の米国籍者を対象に実施した.年齢範囲は18~70歳とした.
 収集データから,高校までの教育を日/米以外で受けた経験があるサンプルと,回答選択肢を指定する設問(DQS)に2回連続して正しく答えなかったサンプルを除外した.分析対象としたデータは,日本1265名(女性46.4%,平均年齢47.0歳(SD 13.33),大卒以上44.4%),米国397名(女性48.6%,平均年齢35.4歳(SD 11.36),大卒以上56.4%)である.
結果と考察
 数学問題の正答数は日本(1.28)>米国(1.08)であった(t(783.39) = 4.37, d = 0.23).
 日/米と評価対象ごとの得意度と有用性の記述統計量を表1に示す.混合2要因分散分析の結果,いずれも2つの主効果と両者の交互作用が有意であった.認知/評価のポジティブさは日本が米国より全体的に低いが,これは文化的な回答傾向の差異を含む可能性がある.評価対象ごとに見ると,得意度が文系・国語>理系・数学という傾向は日米に共通する一方で,有用性が文系・国語>理系・数学という傾向は日本においてのみ示された.つまり,一般成人において,日本人サンプルは数学(理系科目)を他の科目より不得意かつ有用性が低いとみなしており,後者は米国人サンプルには見られない傾向であった.
 今後は韓国,中国,英国等のデータを収集し,それらとも比較検討した上で,日本人の数学に対するネガティブな態度の背景要因を追究したい.

キーワード
数学に対する態度/国際比較/日本人のユニークさ


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