発表

2C-060

叱りの評価次元の解明

[責任発表者] 阿部 晋吾:1
1:関西大学

目 的
 多様な個性や価値観を認めようという社会情勢の中で,家庭や教育現場において叱ることが難しくなりつつある。叱りは“個人が不当と認識する行為を相手に指摘し,改善を求める行為”(阿部・太田, 2014)と定義することができる。叱ることは短期的な問題行動の抑制だけでなく,子どもの人格形成,社会化においてきわめて重要な役割を果たしている。しかし,子どもの性格特性によっては,叱りの意図が否定的にとらえられ,叱られることへの反発や人間関係の悪化がもたらされることが明らかになっている(阿部・太田, 2014)。どのような親・教師が,どのような子ども・生徒に対して,どのように叱ればよいのか,それぞれの特徴にあわせた対応の解明が,課題として残っている。そこで本研究では,叱り方にはどのような評価次元があるかを解明し,叱る側,叱られる側のそれぞれの立場から評価することのできる測定尺度を開発することを目的とする。

方 法
実施方法と対象者 2018年10月に,Web上で調査を実施した。調査会社(株式会社クロス・マーケティング)を通じてモニター登録者に調査依頼し,中学生(1年生男78名, 女73名, 2年生男73名, 女64名, 3年生男66名, 女63名)とその母親,計417組の有効回答を得た。
質問項目 叱りの評価次元:これまでに国内で発表されている叱りに関する研究をレビューし,遠藤他(1991),川島(2004),三宮・竹内(1989),玉瀬(1978),吉川・三宮(2007)で用いられた項目を整理統合して項目化を行った。その際,必ずしも正反対の表現(逆転項目)と言い切れないものは別項目化する,できるだけ価値判断を含まない表現を用いる,送り手と受け手双方が回答しやすい表現にする,などに配慮した。その結果,全36項目を作成した。ふだんどのように子どもを叱るか(母親への質問),また母親から叱られるか(子どもへの質問)について尋ね,選択肢は“1.あてはまらない”から“5.あてはまる”までの5件法で回答を求めた。

結果と考察
叱り評価の構造の検討 母親データ,子データそれぞれについて探索的因子分析(最尤法,プロマックス回転)を行った。その結果,スクリープロットの減衰状況やMAP(最小平均偏相関)などから,母子ともに3因子構造が妥当であることを確認した。36項目中5項目において母子間で最も高く負荷する因子に違いがみられたが,それ以外は概ね同様の因子構造であった。それぞれの因子は,“あたたかく”“良いところを認めながら”など,叱られる子ども自身やその子どもとの関係への配慮がうかがえる“関係志向”因子,“乱暴な言葉で”“罰を与えながら”など,叱りかたそのものに罰の要素が含まれるものや罰を与えることを目的とした“加罰志向”因子,“叱る理由を示して”“どうすればよいか示して”など,叱りによって子どもの行動の変容をねらいとする“改善志向”因子と命名した。以降の分析では,母子間で異なる因子に最も高く負荷した5項目および,母子双方あるいはいずれかにおいて,複数の因子に.40以上の負荷を示した1項目,いずれの因子にも.40以上の負荷が見られなかった1項目の計7項目を除去したうえで,母子ともに共通の29項目を使用して各下位尺度得点を算出した(Table 1)。それぞれのα係数は母親はα= .82, .87, .86,子はα= .85, .89, .84であった。
母子間での叱りの評価の差 次に,各因子の母子間での差異を検討するために,対応のあるt検定を行った(Figure1)。その結果,母親は子どもよりも,自分の叱りの関係志向と改善志向を高く評価しやすく,加罰志向を低く評価しやすいことが明らかとなった(ts(416) > 6.46, ps <.001, ds >.30)。
 このような評価のずれが,叱る側と叱られる側の人間関係にどのような影響を及ぼすのかについては,今後の検討課題である。また,本研究の結果は母子関係から得られたデータに基づくものであり,結果の一般化にあたっては,教師-生徒関係など,より幅広いサンプルによる詳細な検討が今後必要である。

キーワード
叱り/叱られ/親子関係


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