発表

2B-078

保育学生を対象としたTeacher Trainingの効果検証(2)
場面提示による自由記述の観点から

[責任発表者] 松田 侑子:1
[連名発表者・登壇者] 濱田 祥子:2
1:弘前大学, 2:比治山大学

目 的
 近年,就学前の保育所・幼稚園の現場における気になる子どもや問題行動のある子どもへの気づきの重要性が指摘されてきている。他方,クラスに気になる子どもがいる保育者のうち,86.8%は対応に困り感を持っていることも併せて示されている(遠藤他, 2014)。これを踏まえ,本研究では,保育学生を対象として,Teacher Training(以下,TT)を試行し,その効果について検討することを目的とした。TTとは,親を対象とした,発達障害を持つ子どもに対する治療的な援助であるペアレント・トレーニング(Parent Training)の,教師版である。TTで扱う内容は,子どもへの基本的な関わり方の枠組みを提供する点で有意義であると考えられ,対応のレパートリーの変容が予想される。今回は保育におけるシミュレーション的手法として場面提示法(言葉による説明と絵によって場面を提示)を用いて検討を行う。実習生を対象とした研究では,保育の疑似体験ができ,子どもへの関わり方を知る上で有効とされている(志賀, 1997)。

方 法
 20XX年12月から20XX+1年1月にかけてTTを実施し,その事前(Time1,20XX年11月),事後(Time2,20XX+1年2月)の2時点において質問紙調査を実施した。TTプログラムは5回のセッション,各回1時間半であった。行動療法における基本的な考え方,行動の分類,ポジティブな注目をするスキル・注目しないスキル・指示するスキルに関する内容で構成した。
調査対象者:私立の四年制大学1校に在籍する大学生52名である(男性2名,女性50名)。学年の内訳は,2年生26名,3年生26名である(平均年齢19.92歳±1.55)。学年ごとにランダムに介入群と統制群に割付した。
調査項目:①子どもへの対応レパートリー:幼稚園実習の効果を測定するために開発された場面提示法(志賀, 1997)と松瀬(2016)を参考に新たな場面を作成した。図版と共に,「年長組です。今は帰りの準備をする時間ですが,ハルトくんは保育室内を走り回って,自分の帰りの支度をしていません。あなたが担任の先生ならどうしますか?」と教示し,具体的な対応とその理由に関する記入を求めた。

結果
 TTによって子どもへの具体的な対応の仕方にどのような変容が生じたのかを明らかにするために,場面提示法への回答内容を分類した。KJ法の手続きを参考に,内容の類似性が高いものを集約し,13の小カテゴリーを編成,更に3つの大カテゴリーに整理した(表1)。介入群におけるTime1とTime2間の各記述数の変化を明らかにするため,大カテゴリーに関するχ2検定を行ったところ,記述数の偏りが有意であった(χ2(2)=12.63, p<.01)。残差分析の結果,Time1からTime2にかけて「TT促進スキル」は有意に増加し,「TT抑制スキル」「一般的な保育者の関わり」は有意に減少していた。続けて,Time2における介入群とWL群間の各記述数の比較を行うために,大カテゴリーに関するχ2検定を行ったところ,記述数の偏りが有意であった(χ2(2)=17.44, p<.01)。残差分析の結果,WL群に比して介入群の「TT促進スキル」は有意に多く,「TT抑制スキル」「一般的な保育者の関わり」は有意に少なかった。

考察
 行動レパートリーに関する検討からは,TTで使用が促された関わりは増加しており,逆に応用行動分析的には問題行動の増悪を招く可能性もあるとしたスキルは減少が示された。従って,実際に子どもを前にした状況でも,どのように対応するかという選択肢に変化が生じた可能性はある。他方,今回の自由記述から作成したカテゴリーにおいて,介入群のTime2で新規に派生したものはなかった。権藤(1999)は保育者が学問的な知識として理論を理解していなくても,日常の保育活動の中で実践していることも多いと指摘する。つまり,TTを保育者や保育学生に導入するという試みは,新たなスキルの習得だけでなく,それと知らずに身に着けた知識・技術を理論で裏打ちするという点で重要といえるかもしれない。最後に,場面提示法で得られた自由記述の中には,子どもに考えさせて気づきを促したりするといった対応が多く認められた。これは,TTに準えると「不明確な指示」,つまり好ましくないスキルとも捉えることができる。しかし,子どもの自主性を尊重した保育においては,こうした関わりが重要であることも間違いない。TTも子どもが主体的に望ましい行動をとれるように支援していくという点では同じ方向性を持っており,状況や子どもの特性に応じて両者をうまく使いこなすことが必要になってくるだろう。TTを保育・教育現場に実践する際には,保育者や保育学生がすでに行っている援助にうまく組み込まれるような導入を丁寧に行うことが望まれる。

キーワード
Teacher training/効果検証/保育学生


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