発表

2A-088

大学生のキャリア発達と主体的な学習態度(2)
進路決定感がアイデンティティと動機づけに与える影響

[責任発表者] 島 義弘:1
[連名発表者・登壇者] 稲垣 勉:1
1:鹿児島大学

目 的 文部科学省(2012)は中央教育審議会答申の中で,「生涯にわたって学び続ける力,主体的に考える力を持った人材」を育成するために,学士課程教育を「学生が主体的に問題を発見し解を見いだしていく能動的学修(アクティブ・ラーニング)へ」と転換するよう求めている。この提言の視点を学び手である学生に転じると,学士課程の学生に求められるのは「主体的な学習態度」であると言える。
 主体的な学習態度については,内発的動機づけが高いほど主体的な学習態度を取りやすいこと,アイデンティティが明確であることが主体的な学習態度と関連すること等が示されている。畑野・原田(2014)は動機づけとアイデンティティが主体的な学習態度に対して与える影響を検討し,アイデンティティが明確であることが内発的動機づけを高め,結果として学生の主体的な学習態度につながることを示した。このことから,学生の内発的動機づけを高めるような働きかけのみならず,アイデンティティを明確化するような働きかけが重要であること,アイデンティティを明確にするための支援の在り方の1つとしてキャリア教育の充実が求められることを指摘している。
 本研究では,キャリア教育がアイデンティティの明確化,ひいては主体的な学習態度の涵養につながることを実証することを目的とした。稲垣・島(2019)において畑野・原田(2014)の結果が追認されたことを踏まえて,本報告では大学生の進路決定感がアイデンティティや主体的な学習態度に与える影響を検討した。進路決定感を有するということはより高いキャリア意識を持っているものと考えられるため,進路決定感を有する学生はそうでない学生よりも明確なアイデンティティの感覚を持ち,より主体的な学習態度をとり,内発的な動機づけを持っているものと考えられる。
方 法調査協力者 大学生350名(1年生65名,2年生105名,3年生129名,4年生50名,不明1名:Mean age = 20.22, SD = 1.58)を対象に質問紙調査を行った。
調査内容 フェイスシート(年齢,学年,性別,進路希望(決定,未定)等)に続いて,職業決定不安尺度(清水,1990),目標志向性尺度(白井,1994,1997),多次元自我同一性尺度(谷,2001),主体的な授業態度尺度(畑野・溝上,2013),学習動機づけ尺度(畑野,2013),達成目標志向性尺度(中野・藤井,2014)への回答を求めた。
結 果 と 考 察 進路について,希望が決まっていると回答したものを進路決定群,希望が決まっていないと回答したものを進路未定群として,各尺度の平均値と標準偏差をTable 1に示した。
 初めに,職業決定不安尺度と目標志向性尺度について進路決定感を独立変数としたt検定を行ったところ,職業決定不安は進路決定群(M = 2.84, SD = 1.12)よりも進路未定群(M = 4.00, SD = 0.95)が(t (318.74) = 10.38, p < .001, d = 1.12),目標志向性は進路未定群(M = 2.95, SD = 0.83)よりも進路決定群(M = 3.83, SD = 0.78)が(t (347) = 10.10, p < .001, d = 1.10),それぞれ高かった。このことから,進路決定群は進路未定群よりも肯定的な将来展望を持っていること示された。本研究では進路希望(決定・未定)について自己報告で回答を求めた。調査対象には大学1年生から4年生までが含まれており,実際の進路が決定しているものは対象者の一部にとどまると考えられるが,ある程度適切に大学生のキャリア意識を捉えることができたものと考えられる。
 続いて,残りの全ての変数についてt検定を行ったところ,対他的同一性を除くアイデンティティの3下位尺度はいずれも進路決定群の得点が高く(t (345-347) ≧ 2.41, ps < .05, ds ≧ 0.27),主体的な学習態度も進路決定群の方が高かった(t (344) = 2.61, p < .01, d = 0.29)。また,学習動機づけについては,向上志向と知的好奇心は進路決定群の得点が高く(t (345) ≧ 2.38, ps < .05, ds ≧ 0.26),将来不安は進路未定群の方が高い傾向が認められた(t (344) = 1.74, p = .08, d = 0.20)。一方,授業全般に対する動機づけとしての達成目標志向性にはマスタリー接近(t (347) = 2.57, p < .05, d = 0.28)を除いて進路決定による差は見られなかった。以上のことから,少なくとも主観的に将来の進路(希望)が定まっていると感じているほどアイデンティティの感覚が明確であり,主体的な学習態度をとっていることが示された。
 本報告は1時点での横断研究であるため発達的変化については言及できないが,キャリア発達がアイデンティティの明確化をもたらすのであれば,キャリア教育の充実が大学生の主体的な学習を促進させる可能性が示唆される。今後は,キャリア教育によるアイデンティティの発達と学習態度の変容について,縦断データを収集して検討していく。

キーワード
キャリア発達/主体的な学習態度/アイデンティティ


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