発表

2A-087

大学生のキャリア発達と主体的な学習態度(1)
アイデンティティと主体的な授業態度に対する内発的動機づけの媒介効果

[責任発表者] 稲垣 勉:1
[連名発表者・登壇者] 島 義弘:1
1:鹿児島大学

目 的 近年,「一方向的な知識伝達型講義を聴くという (受動的) 学習を乗り越える意味での,あらゆる能動的な学習 (溝上, 2014)」としてアクティブ・ラーニングが注目されている。その背景には,従前の「インプットだけの,一方向的で,受動的な講義形式が主流だった大学授業 (松下, 2015)」から,学習者中心のパラダイムへの転換を図るねらいがあると言える (稲垣・當山, 2017) 。したがって,学習者にはより主体的な学習態度が求められる。
 主体的な学習態度の促進要因を検討した畑野・原田 (2014) は,大学1~3年生に調査を行い,アイデンティティが明確であることが内発的動機づけの向上につながり,主体的な授業態度を促進することを示した。本研究では,畑野・原田 (2014) のサンプルとは異なる大学の学生に調査を行い,彼らの知見が頑健であるか否かを検討する。併せて,畑野・原田 (2014) では収集されていない大学4年生のデータも収集し,全ての学年において同一のモデルが採用されるか否かも検討する。
方 法調査協力者 大学生350名 (1年生65名,2年生105名,3年生129名,4年生50名,不明1名:Mean age = 20.22, SD = 1.58) を対象に質問紙調査を行った。このうち以下のいずれの項目にも欠損のない342名を最終的な分析対象とした。
調査内容 フェイスシート (年齢,学年,性別,進路希望 (決定,未定) 等) に続き,多次元自我同一性尺度 (谷, 2001),主体的な授業態度尺度 (畑野・溝上, 2013),学習動機づけ尺度 (畑野, 2013) への回答を求めた。他に複数の心理尺度を実施したが,本報告とは関連しないため割愛する (詳細は島・稲垣 (2019) を参照) 。
結 果 と 考 察 多次元自我同一性尺度の下位尺度のうち「対自的同一性」「心理社会的同一性」を「心理社会的自己同一性」の指標とし,学習動機づけ尺度の下位尺度のうち「知的好奇心」を内発的動機づけの指標として分析に用いた。各尺度の相関係数と記述統計量をTable1,2に示す。3年生のみ心理社会的自己同一性と主体的な授業態度の相関が有意でなく,媒介分析の前提を満たさないが,それ以外の変数間の相関はいずれの学年においても有意であったため,畑野・原田 (2014) と同様の分析を進めた。
 心理社会的自己同一性が内発的動機づけを媒介して主体的な授業態度を促進するというモデルが,学年を問わず当てはまるか否かを検討するため,畑野・原田 (2014) と同様に多母集団同時分析を実施した。内発的動機づけおよび主体的な学習態度はItem Parcelingを行い,潜在変数を仮定したほか,心理社会的自己同一性は対自的同一性と心理社会的同一性の2下位尺度から潜在変数を構成した。全てのパスに等値制約を課すモデルは,等値制約を課さないモデルよりAICが低かったため (218.78<220.36),畑野・原田 (2014) と同様に等値制約を課すモデルを採用した。採用したモデルのパス係数と決定係数をFigure1に示す。
 内発的動機づけの間接効果について正確な評価を行うため,ブートストラップ法 (標本数5000) を用いて信頼区間を計算した結果,いずれの学年においても間接効果の95%信頼区間は0をまたがず (CIs [.02-.31]),間接効果はいずれも有意だった。すなわち,学年を問わず心理社会的自己同一性は内発的動機づけを媒介して主体的な授業態度に影響を及ぼしており,本研究は畑野・原田 (2014) の結果を再現したと言える。加えて,本研究において4年生も同様のモデルが当てはまることが示された。
 島・稲垣 (2019) は,進路決定感を有する大学生はアイデンティティが明確であり,学習態度が主体的で学習への動機づけが高いことを示した。この研究や畑野・原田 (2014),本研究の結果を踏まえれば,キャリア教育によって進路決定が促されるならば,アイデンティティが明確になり,内発的動機づけを促進することで主体的な授業態度に結びつく可能性がある。今後はこの点を実証するため,キャリア教育の受講によって大学生のアイデンティティに変容が見られるか否かを,縦断的な視点から検討していく。

キーワード
アイデンティティ/内発的動機づけ/主体的な授業態度


詳細検索