発表

2A-086

課題学習における欲求支援行動の効果は制御焦点によって調整されるか?

[責任発表者] 肖 雨知:1
[連名発表者・登壇者] 外山 美樹:1,2, 長峯 聖人:1,2, 三和 秀平:2,3, 湯 立:1,2, 相川 充:1,2
1:筑波大学, 2:教育テスト研究センター, 3:関西外国語大学

【問題と目的】
 自己決定理論は,学業達成を高めるために,3つの基本的心理欲求(自律性・有能感・関係性)の充足を重要視している(Deci & Ryan, 2000)。これらの欲求は,他者とのかかわりにおいて充足され,基本的心理欲求の充足につながる他者の欲求支援行動として,自律性支援,有能感支援,ならびに関係性支援の3種類がある(Rocchi et al., 2017)。これまで,学業達成における欲求支援行動の有効性が繰り返し示されている(例えば,Vasquez et al., 2016)が,その効果の調整要因に関する検討は不足している。本研究は,その調整要因として,制御焦点理論(Higgins, 1997)に着目し,欲求支援行動(自律性支援,関係性支援)と制御焦点(促進焦点,防止焦点)が課題学習に与える影響を検討する。
 欲求支援行動の効果について制御焦点を考慮した研究として,恋人関係に着目したHui et al.(2013)がある。Hui et al.(2013)は,促進焦点の傾向が高い個人の場合,個人の選好や達成が優位になるため,自律性支援の重要性を認知しやすく,結果として受領する自律性支援と適応的な結果との関連が大きくなる一方,防止焦点の傾向が高い個人の場合,個人は安心や安全に目を向けやすいため,安心や安全感を支える関係性支援を受領することと適応的な結果との関連が大きくなることを明らかにしている。本研究は,課題学習においてHui et al.(2013)と同様の結果が得られるかどうかを検証することを目的とする。
【方法】
実験参加者 国立大学の大学生64名(男性32名,女性32名)
実験計画 欲求支援行動(自律性支援,関係性支援)と制御焦点(促進焦点,防止焦点)の2要因を独立変数とする実験参加者間計画であった。
使用尺度 (1)制御焦点:学業領域における制御焦点尺度(外山他,2016)を用いた(14項目,7件法)。促進焦点の得点から防止焦点の得点を引いた相対的制御焦点得点の中央値を群分けに使用した。(2)英語の語彙力:空欄補充式で回答を求めた。(3)英語の効力感:独自作成(2項目,7件法)。(4)基本的心理欲求の充足:BPNSFの日本語版(Nishimura & Suzuki,2016)を用いた(欲求充足に関する12項目,5件法)。(5)ヒントの理解度:「あなたは,ヒントをどのくらい理解できたと思いますか」の独自作成の1項目に対して7件法で尋ねた。なお,(1)~(4)は実験課題の実施前に,(5)は実施後に回答を求めた。
実験課題と手続き 実験は,実験室で個別に行った。Sheldon & Filak(2008)に倣い,英文字が含まれるマスにおいて3分の制限時間内に3文字以上の英単語を見つける「BOGGLE」というパズル課題を用いた。パズル課題はプレ試行,本試行の計2回実施し,1回目の試行後に,よりうまく解けるためのヒントについて説明を行った。
欲求支援行動の操作 Sheldon & Filak(2008)に倣い,自律性支援条件では,選択肢を与え,自発的な考えを促すように教示を行い,関係性支援条件では,実験参加者のことに関心や共感を示し,支持的な姿勢を示すように教示を行った。
【結果と考察】
 欲求支援行動(自律性支援,関係性支援)と制御焦点(促進焦点,防止焦点)を独立変数,パフォーマンス,ヒントの理解度を従属変数,英語の語彙力,英語の効力感,ならびに基本的心理欲求の充足を共変量として投入した2要因共分散分析を行った。
パフォーマンス 「(3文字の単語の正答数)×1+(4文字の単語の正答数)×2+(5文字の単語の正答数)×4+(6文字以上の単語の正答数)×5-(誤答数)×1」という式で試行ごとに得点を算出した。本試行の得点をパフォーマンスの得点とし,上述した共変量の他にプレ試行の得点も共変量として投入した上で分析を行った。分析の結果,交互作用(F (1, 54)=0.70, p=.41, ηp2=.01)は有意ではなく,仮説を検証するために行った制御焦点の単純主効果検定の結果も有意ではなかった(自律性支援条件:F (1, 54)=0.44, p=.51, ηp2<.01,関係性支援条件:F (1, 54)=0.26 p=.61, ηp2<.01)。
ヒントの理解度 交互作用(F (1, 55)=0.96, p=.33, ηp2=.02)は有意ではなかったが,仮説検証のため下位検定を行った結果,自律性支援条件における制御焦点の単純主効果は有意であり(F (1, 55)=4.12, p=.04, ηp2=.07),促進焦点(M=5.94, SE=0.29)は,防止焦点(M=5.05, SE=0.30)より得点が高かった(Figure 1)。一方,関係性支援条件における制御焦点の単純主効果は有意ではなかった(F (1, 55)=0.55, p=.46, ηp2=.01)。
 結果をまとめると,パフォーマンスにおいて,仮説は支持されなかったが,ヒントの理解度に関して,自律性支援の仮説は支持された。促進焦点の個人は,個人の独立性を尊重する自律性支援により重要性を感じ,結果として自律性支援が課題内容の理解においてより効果的だったことが考えられる。仮説が一部支持されなかった理由を究明するために,今後は,操作の内容を洗練化した上での再検討が求められる。

キーワード
自己決定理論/制御焦点理論/欲求支援行動


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