発表

2A-085

難しい学習場面における動機づけ調整方略の使用とエンゲージメントとの関連
―制御適合の役割―

[責任発表者] 湯 立:1,2
[連名発表者・登壇者] 外山 美樹:1,2, 三和 秀平:2,3, 長峯 聖人:1,2, 肖 雨知:1,2, 相川 充:1,2
1:筑波大学, 2:教育テスト研究センター(CRET), 3:関西外国語大学

問題と目的
 動機づけが低下する時に,学習者が自分の動機づけの状態を調整するために様々な方略を用いることが示されてきた (e.g., 梅本・田中,2012,Wolters & Benzon, 2013)。ただし,特定の動機づけ調整方略がいかなる状況や個人においても有効であるとは限らない。そこで,本研究では,難しい学習場面における動機づけ調整方略の効果が,個人の特徴によって異なるかどうかについて検討する。効果の指標として,エンゲージメント (学習への取り組みや関与のあり方) を用いる。また,個人の特徴として,制御焦点を取り上げる。制御焦点理論 (Higgins, 1997) では,成長の欲求 (理想や希望) によって動機づけられ,獲得の在・不在に焦点を当てる「促進焦点」と,安全の欲求 (義務や責任) によって動機づけられ,損失の在・不在に焦点を当てる「防止焦点」を区別している。そして,制御適合理論 (Higgins, 2000) では,活動に取り組む際に用いる方略が目標志向性(促進焦点,防止焦点)に合致する時に,人々は「制御適合」を経験し,エンゲージメントが高まることを仮定している。この観点を踏まえると,難しいと感じ,やる気が出ない時に,「促進焦点」は自己効力感高揚方略 (目標達成に向けて自分を励ます方略) を,「防止焦点」は義務強調方略 (目標を義務として捉えることで動機づける方略) や遂行回避目標セルフトーク方略 (悪い成績の回避を意識することで動機づける方略) を用いると,制御適合を経験し,エンゲージメントが高まることが予想される。
方 法
調査回答者 6つの大学の大学生計304名(男性118名,女性182名,不明4名)が調査に参加した。
調査内容 1. 動機づけ調整方略:湯・外山 (印刷中) の「動機づけ理論に基づく動機づけ調整方略」を使用した。分析では,「自己効力感高揚方略」,「義務強調方略」,「遂行回避目標セルフトーク方略」の3下位尺度を用いた。2. 制御焦点:PPFS邦訳版 (尾崎・唐沢,2011) を用いた。分析では,下位尺度である「利得接近志向 (促進焦点)」の得点から「損失回避志向 (防止焦点)」の得点を引いた相対的制御焦点の得点を用いた。3. エンゲージメント:「感情的エンゲージメント」は梅本・伊藤・田中 (2016) の5項目を,「認知的エンゲージメント」は梅本 (2013) の深い処理方略を測定する6項目を,「行動的エンゲージメント」は梅本・田中 (2012) の4項目を用いた。すべての尺度は,7段階評定で回答を求めた。
結果と考察
 動機づけ調整方略とエンゲージメントとの関連において,相対的制御焦点が調整変数となりうるかどうかを検討するために,エンゲージメントの各下位尺度を従属変数とする階層的重回帰分析を行った。Step 1で相対的制御焦点と3つの動機づけ調整方略を,Step 2で相対的制御焦点と各動機づけ調整方略の交互作用項を回帰式に投入した。その結果(Table1),各エンゲージメントにおいて相対的制御焦点と自己効力感高揚方略との交互作用 (β=.14〜.19, ps<.01) が有意となり,認知的エンゲージメントにおいて相対的制御焦点と義務強調方略との交互作用 (β=-.10, p<.10) が有意傾向となった。交互作用の内容を調べるために,単純傾斜分析を行った。具体的には,相対的制御焦点の平均値+1SD(相対的促進焦点を示す)および平均値-1SD (相対的防止焦点を示す) を用い,各エンゲージメントに対する動機づけ調整方略の回帰直線をそれぞれ求めた。その結果,自己効力感高揚の方略と感情的 (Figure 1) ・認知的・行動的エンゲージメントとの関連は,相対的防止焦点の傾向が高い場合 (順に,β=.32, .37, .27, ps<.001) よりも,相対的促進焦点の傾向が高い場合 (β=.55, .60, .57, ps<.001) において強かった。また,義務強調方略と認知的エンゲージメントとの関連 (Figure 2) は,相対的促進焦点の傾向が高い場合には,有意な関連 (β=.06, p=.43) は示されなかったが,相対的防止焦点の傾向が高い場合には,正の関連 (β=.22,p=.01) が示された。
 本研究の結果より,難しいと感じ,やる気が出ない時に,促進焦点の優位な個人は自己効力感高揚方略を,防止焦点の優位な個人は義務強調方略を用いることで,制御適合が生じ,意欲的な取り組みにつながる可能性が示された。

キーワード
動機づけ調整/エンゲージメント/自己調整


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