発表

2A-084

学習時における「仮想的な他者」の利用
インタビュー調査による検討

[責任発表者] 島田 英昭:1
1:信州大学

問題と目的 近年の教育では,対話的学びの重要性が増している。たとえば,2017-18年に改定された新学習指導要領では,「主体的・対話的で深い学び」がキーワードとなっている。また,学校教育や企業教育の場においても,アクティブラーニングやワークショップ等の対話的学びが増加している。
 一般的に対話は,2人またはそれ以上の人間同士により行われる。一方,目の前に対話相手がいなくても,あたかも対話をしているように振る舞うことがある。たとえば,聴衆を想定してプレゼンテーションの練習をするといった行為がある。中には,幼児の想像上の友だちや,統合失調症患者の幻聴のように,リアルな対話が個人の中で生じることもある。
 このような「個人内対話」を学びの文脈で考えると,対話的学びを個人の中で可能にして,対話的学びの利点を個人で実現している可能性がある。そこで本研究は,インタビュー調査を通して,個人内で対話的に学ぶ事例を収集した。

方法 勉強中に「仮想的な対話」を行う経験がある参加者を募る資料を作成し,大学の授業前の時間に配布し,掲示板に掲示した。資料には「本の著者や登場人物に話しかけることがある」「誰かに説明している場面を思い浮かべる」「教科書やパソコンに擬人化して声をかける」等の例を含めた。応募者の中から,大学生・大学院生14名(年齢20-25歳,男性4名,女性10名)に対してインタビュー調査を行った。
 実験内容の説明と録音の同意を得た後,録音しながらインタビューを行った。原則として参加者に自由に語ってもらうことを重視して,主に読書をしているとき,勉強をしているときに2点について,具体的なケースを語ってもらった。インタビューの終了後,年齢・性別等のアンケートの記入を求め,図書カード500円分を謝礼として渡した。実験時間はおよそ15-30分程度であった。
 なお,倫理的配慮として,研究内容について信州大学教育学部研究委員会倫理審査部会の審査を受け,承認された(管理番号H30-2)。

結果エピソードの量的分析
 録音をもとに,独り言や対話対象等の言及があったエピソードを参加者ごとに取り出した(例:レポート課題作成中,文章を書くときに独り言を言う)。エピソード合計117,平均8.4(範囲5-14)であった。以下,これらのエピソードを分析対象とした。
 エピソードの中で,「独り言を言う」「言葉に出す」といった発話が随伴していたもの,「頭の中で唱える」「内言」といった発話が随伴していないもの,および不明なものに分けた。その結果,発話が随伴していたエピソードは95(平均6.8,範囲0-10)であり,不明を除く割合は93%(平均86%)であった。
 エピソードの中で,「独り言の対象は小説の作者ではなく登場人物」といったように,対象が明確なものとそうではないものに分けた。その結果,対象が明確なエピソードは24(平均1.7,範囲0-5)であり,割合は21%(平均24%)であった。また,対象としては,著者,登場人物,仮想の子ども,自分といった人間が多かったが,テレビ,数学の問題といった人間以外のものもみられた。
 上記の発声の随伴と対象の有無の関係を検討したところ,14名の相関係数はr=-.62であり,発声が随伴するエピソードが少ないほど対象があるエピソードが多かった。
 「英単語を覚えるときに」といった,記憶方略として発声を使用する例が数多く見られたため集計したところ27(平均1.9,範囲0-6)あり,23%(平均24%)であった。
事例の抽出
 仮想的対話を行っていると考えられるエピソードを2点抽出した。
 第一に,仮想的な子どもと対話をしている例である。参加者「・・・友達というよりは,子どもが,”先生,わからない”と言ってきたと思って,内容が高度だとしても,自分の中にいるのは子どもかもしれない。子どもっぽい言葉で教えることになるから,それが,内容が難しい内容だとしても,難しくないと自分に思い込ませるために,子どもを対象にしているかも」
 第二に,アナウンサーの立場で英語の学習をする例である。参加者「英単語よりは文。文をそのまま読むのではなく,”これはこうなんですよ”みたいな。本当にアナウンサーみたいな感じで・・・中略・・・アナウンサーでやってるから説明したくなる」

考察 事例の抽出から,仮想的な子どもやアナウンサーに対する聴衆などを想定して,仮想的な他者を利用した学習が,少なくとも事例としてあることが明らかになった。一方,参加者のリクルートの段階で,学習中の仮想的な対話の経験があることを条件としたが,インタビューの結果,必ずしも他者を想定した対話ではなく,独り言が多くを占めていた。ここから,明確な他者の想定を意識することは少ないと考えられる。しかし,調査のしかたを変えれば,仮想的な他者との対話が抽出される可能性があり,今後の課題となる。最後に,仮想的な他者を想定する場合は,発話が随伴することが少なかった。サンプルが少ないため今後の検討が必要であるが,仮想的な他者との対話は内的に行われる傾向が示された。

付記 本研究は科研費JP17K18620の助成を受けたものです。

キーワード
協働学習/仮想的な他者/大学生


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