発表

2A-080

対面して教えることによる学び
対面教授予期と教授的相互作用の役割

[責任発表者] 小林 敬一:1
1:静岡大学

[問題と目的] 他者を教えることが教えた本人の学習を促進するという効果はこれまで多くの研究で実証されてきた。そうした教授による学習の効果は一般に,教授予期準備学習フェーズの効果とそれに続く教授フェーズの効果を合成した効果と考えることができる。事実,Kobayashi (2018)のメタ分析は,教授予期あり学習単独(vs. 教授予期なし学習)の効果がg = 0.35,教授予期あり学習+教授の効果がg = 0.56と,教授準備学習と教授活動がそれぞれ教授による学習の効果に貢献している可能性を示唆している。しかし,教授(とその予期)には学習者と対面する場合(例えば,教室でのピアチュータリング)と学習者を想定するだけの場合(例えば,架空の他者を想定して説明文を書く,教授ビデオを作成する)があり,前者の方が学習効果が高いことを示唆する知見(Kobayashi, 2018)があるにも関わらず,対面教授やその予期が合わさることでどのような学びが起こるのかを詳細に調べた研究は少ない。そこで,本研究では次の3点に焦点を合わせて検討を加える。(1)対面教授予期は教授準備学習+(対面)教授の学習効果に貢献するのか。教授フェーズが後に続く場合,対面教授予期の効果は対面教授の効果に単純に加算されるわけではないかもしれない(Kobayashi, 2019)。本研究ではそうした可能性を検討する。(2)対面教授中に教授者が産出する説明はどのように教授による学習に影響するのか。本研究では,対面教授の最初に教授者が一通りおこなう説明とそれを受けた教授者-学習者間相互作用において教授者が産出する説明を分けて,それぞれの寄与を調べる。(3)対面教授することによる学習と対面教授を受けることによる学習とはどのように関係しているのか。これまでの研究で対面教授が学習者の学習を促進することが明らかにされている(e.g., Roscoe, 2014)が,教授者の学習と学習者の学習がどのように関係しているかを検討した研究は少ない。本研究ではこの問題についても調べる。
[方法] 大学生80名がペア(教授者役,学習者役)になり,教授準備-教授条件かテスト準備-教授条件に割り振られた。教授者役の実験参加者はまず,社会的手抜きと調整の失敗が集団パフォーマンス(大声を出す)に及ぼす影響を実証したラタネらの研究について紹介したテキストを(対面教授あるいはテストを予期しながら)学習した。次に,学習者役の実験参加者にテキスト内容を一通り説明し(最初の説明),それから自由に教授的やりとりをおこなった(相互作用)。最後に,実験参加者全員に,社会的手抜きと調整の失敗という基本的概念の理解(概念理解),実験の方法・結果に関する基本的理解(実験理解),ラタネらの実験結果と社会的抜き・調整の失敗がどう関係しているか(両者がどのように関係しているかテキストでは直接,言及していない)についての理解(関係理解),ラタネらによる研究の背後にある原理の理解(転移)を調べる事後テストを実施した。
[結果と考察] (1)対面教授予期の効果:事後テスト成績はいずれも,教授者が学習者より優っていた(Fs > 4.38, ps < .05)が,条件間の差は有意でなかった(Fs < 1.10)。加えて,基本的概念や(それら概念と実験結果の)関係に関する最初の説明(正確さと精緻化を基準に得点化),相互作用中に教授者が産出した説明についても,条件間の差は有意でなかった(ts < 1)。つまり,対面教授予期の有無は,対面教授過程にも準備学習と対面教授による学習所産にも影響を及ぼさなかったといえる。(2)説明産出が教授者の学習に及ぼす効果:最初の説明と相互作用中の説明にはほとんど関連が見られなかった(概念r = .05,関係r = .20)。表1に示すとおり,概念理解は概念に関する最初の説明が,関係の理解は関係に関する最初の説明と相互作用中の説明が,転移は関係に関する相互作用中の説明がそれぞれ有意な正の説明変数であった。これらの結果は,教授者による単なる説明を超えて,教授者-学習者間相互作用が対面教授による学習に独自の貢献をし得ることを示唆している。(3)説明による学習と説明を受けることによる学習の関係:教授者と学習者の事後テスト成績には弱いあるいは中程度の正の相関が見られた(概念理解r = .65, p < .001,実験理解r = .31, p < .06,関係理解r = .53, p < .001,転移r = .38, p < .05)。また,教授者と学習者で多少違いはあるものの,最初の説明と相互作用中の説明は学習者の事後テスト成績にも効果を及ぼしており(表1参照),教授による(教授者の)学習を促進する上で効果のある説明は学習者の学習にとっても効果的であることを示唆している。
「引用文献」
1. Kobayashi, K. (2018). Learning by preparing-to-teach and teaching: A meta-analysis. Jap. Psychol. Res. doi:10.1111/jpr.12221
2. Kobayashi, K. (2019). Interactivity: A potential determinant of learning by preparing to teach and teaching. Front. Psychol., 9, 2755.
3. Roscoe, R. D. (2014). Self-monitoring and knowledge-building in learning by teaching. Instr. Sci., 42, 327-351.

キーワード
教授による学習/対面教授/教授予期


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