発表

1D-081

全国学力・学習状況調査における質問紙調査の再分析(10)
独自生徒質問紙調査における因子構造と学力代理変数との関連

[責任発表者] 杉本 英晴:1
[連名発表者・登壇者] 吉澤 寛之:2, 谷 伊織:3, 松本 明日香:3, 寺尾 香那子:4, 辰巳 哲子#:5, 鎌田 首治朗#:6, 田村 知子#:7
1:駿河台大学, 2:岐阜大学, 3:愛知淑徳大学, 4:名古屋大学, 5:リクルートワークス研究所, 6:桃山学院教育大学, 7:大阪教育大学

問題と目的 文部科学省は児童・生徒の学力や学習状況の把握,教育改善の方針検討等を行うため,全国学力・学習状況調査を実施してきた。本調査は,当初より学力調査のみならず,学校や児童・生徒を対象とし,学習環境や学習状況に関する調査も実施してきた。平成29年3月31日には新たに「社会に開かれた教育課程」を目指す学習指導要領が公示され,小学校・中学校においても移行期間を経て順次実施される。それに伴い,全国学力・学習状況調査の改善はもちろん,新学習指導要領で重点事項とされる学力に影響を及ぼす学校や児童・生徒の学習環境・学習状況の検討が求められている。
 そこで本研究では,生徒に焦点をあて,新学習指導要領に対応した全国学力・学習状況調査の新規の質問項目を作成したうえで,妥当性確認のための既存の質問項目とともに新たな変数を設定し,これらの質問項目からなる変数が生徒の学力に及ぼす影響を検討する。

方 法 調査対象者 Z市立中学校22校に在籍する中学3年生3605名に調査を実施した。
 調査内容 全国学力・学習状況調査における既存項目に新規項目を加えた質問紙A(基本的生活習慣,家庭でのコミュニケーション等,地域との関わり,規範意識,道徳,主体的・
対話的・深い学び,自尊感情,対人関係基礎力)と,質問紙B(教科に関する関心・意欲・態度,学習方略,学習動機づけ,社会に対する興味,将来に関する意識)の二種類の調査内容を準備した(4件法)。そのうえで,それぞれの調査内容に学力代理変数(谷他, 2018)を加え,最終的な項目数は質問紙A,質問紙Bともに計87項目であった。

結果と考察 はじめに,学力代理変数への影響要因として,質問紙Aの学力代理変数を除く全ての項目に対し,最尤法・プロマックス回転による因子分析を実施した。ガットマン基準,及び,解釈可能性の観点から因子数を決定し,因子負荷量が.25に満たない項目は下位因子から除外した。その結果,主体的,対話的な学習活動に該当する第1因子,対人関係能力に該当する第2因子,地域との関わりに該当する第3因子,セルフ・コントロールとに該当する第4因子,家族とのコミュニケーションに該当する第5因子,自尊意識に該当する第6因子,道徳の授業の有用感に関する第7因子が見いだされた。
 そのうえで,各因子が学力代理変数に及ぼす影響を検討すべく,7因子を説明変数,学力代理変数を従属変数とした重回帰分析を行った。その結果,主体的,対話的な学習活動とセルフ・コントロールから,学力代理変数に有意な正の標準偏回帰係数(βs = .08-.80, ps < .001)が得られた(R2 = .56, p < .001)。
 次に,学力代理変数への影響要因として,質問紙Bの学力代理変数を除く全ての項目に対し,最尤法・プロマックス回転による因子分析を実施した。ガットマン基準,及び,解釈可能性の観点から因子数を決定し,因子負荷が.25に満たない項目は下位因子から除外した。その結果,キャリア形成の資質・能力―関心に該当する第1因子,数学に対する有能感に該当する第2因子,学習に対する有用感―将来,自己に該当する第3因子,社会に対する興味に該当する第4因子,国語に対する有能感に該当する第5因子,学習に対する有用感―興味に該当する第6因子,学習動機づけの調整―外発的,暗記・繰り返し方略に該当する第7因子,学習に対する有用感―他者比較に該当する第8因子,学校への期待―教師に該当する第9因子,自己調整学習に該当する第10因子,学校への期待―学習内容に該当する第11因子,キャリア形成の資質・能力―コントロール感に該当する第12因子が見いだされた。
 そのうえで,各因子が学力代理変数に及ぼす影響を検討すべく,12因子を説明変数,学力代理変数を従属変数とした重回帰分析を行った。その結果,数学に対する有能感,学習に対する有用感―将来,自己,社会に対する興味,国語に対する有能感,学習動機づけの調整―外発的,暗記・繰り返し方略,学校への期待―学習内容,キャリア形成の資質・能力―コントロール感から,学力代理変数に有意な正の標準偏回帰係数(βs = .07-.44, ps < .001)が得られた(R2 = .74, p < .001)。
 なお,どちらの調査も新規項目と妥当性項目全体で因子分析をした結果,新規項目は該当する妥当性項目と同じ因子に構成された。また,新規項目と妥当性項目をそれぞれ分けて因子分析を行った結果,新規項目の各概念に該当する尺度項目にはそれぞれ1因子性が確認され,妥当性項目には先行研究を踏襲する概念構造が再現された。さらに,新規項目を説明変数,学力代理変数を従属変数とした重回帰分析を行った結果,質問紙Aでは主体的で深い学びが,質問紙Bでは数学に対する有能感が学力代理変数にとりわけ強い影響を示した。
 本結果から,新学習指導要領に対応した全国学力・学習状況調査の新規項目について,1因子性の構造,及び,妥当性項目と同じ因子に構成されたことから妥当性,さらには,新規項目からなる変数が,生徒の学力を予測することが明らかにされた。今後は,家族や友人,教師など個人の有する関係性が個人の能力やスキル,意識を媒介して,学力に影響を及ぼすといった媒介モデルの検討が求められる。

付 記 本発表は文部科学省委託研究「平成28年度学力調査を活用した専門的な課題分析に関する調査研究」の一部である。

キーワード
学力代理変数/学習状況/質問紙調査


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