発表

1D-078

全国学力・学習状況調査における質問紙調査の再分析(7)
―平成28年度児童質問紙データの因子分析による構成概念の検討―

[責任発表者] 谷 伊織:1
[連名発表者・登壇者] 吉澤 寛之:2, 杉本 英晴:3, 松本 明日香:4, 寺尾 香那子:5, 田村 知子#:6
1:愛知淑徳大学, 2:岐阜大学, 3:駿河台大学, 4:愛知淑徳大学, 5:名古屋大学, 6:大阪教育大学

問題と目的日本における学校教育の実態を把握し,その改善を目的として行われる全国学力・学習状況調査では学力調査と同時に児童生徒と学校を対象とした質問紙調査が実施されている。これによって,学力の背景に存在する学習状況や生活習慣,学習観の把握,教育施策の成果と課題の検証などが行われてきた。一方で,調査の方法や目的,活用法等に対する批判や問題も指摘されており(志水, 2011),改善のために多くの取り組みが行われている。本報告はその一環として,主に質問紙調査の改善に資するために行われた研究の一部である。
これまでの児童生徒質問紙調査の分析結果では,度数分布とクロス集計が主に報告されてきたが,質問紙に含まれる多くの項目の選択肢は「①当てはまる,②どちらかといえば当てはまる,③どちらかといえば当てはまらない,④当てはまらない」の4件法であり,これ以外の項目も順序性が認められるものである。このようなデータに対し,心理学領域ではリッカート尺度を用いた分析が行われており,各項目の記述統計量や項目間の相関関係を検討し,因子分析の結果に基づいた尺度得点を用いた分析を行う流れが一般的である。そこで,谷他(2018)では平成27年度の小学生を対象としたデータに対して一連の心理統計手法を用いた分析を試みた結果,児童生徒質問紙調査から心理的個人差を表す構成概念因子の抽出が可能であり,それらが学力に対して一定の説明力を有することが示された。本研究においてはさらにその知見の頑健性を検証するために,平成28年度の同データに対して分析を行い,同様の結果が得られるかどうかを検討する。

方 法対象者 平成28年度の全国学力調査における小学6年生の対象者数は1,050,754名であった。
測定内容 平成28年度児童調査は85項目から構成されており,「学習に対する関心・意欲・態度(国語)」,「学習に対する関心・意欲・態度(算数)」,「学習に対する関心・意欲・態度(総合的な学習の時間)」,「学習状況(言語活動)」,「学習状況(指導状況)」,「学習時間等」,「学校生活等」,「基本的生活習慣」,「社会に対する興味・関心」,「家庭でのコミュニケーション等」,「主体的・対話的で深い学びの視点による学習指導の改善の取り組み状況」,「学習評価の在り方」,「全国学力・学習状況調査10年目の経年変化の把握」の14領域に分類されている。多くは4件法であるが,選択肢に順序性が認められない1項目は分析から除外した。学力調査は,国語A・B,算数A・Bの2教科,4調査であり,A問題については主に知識,B問題については主に活用についての問題から構成されていた。

結果と考察まず,児童調査の各項目の分布と学力テストとの相関係数を検討した後に,全項目を用いた探索的因子分析を行い,信頼性を検討するためにα係数を求めた。その結果,スクリープロットと解釈可能性の観点より8因子(「主体的・対話的な学習活動」,「規範・自尊感情」,「算数への関心,意欲,態度」,「言語活動への取り組み」,「基本的生活習慣」,「教科に対する有用感」,「家庭学習」,「読書習慣」,「時間外学習時間」,「記述問題への取り組み方」)が見出された。各因子のα係数は.591~.906であり,2因子以外は.70を超えていた。平成27年度の児童質問紙の因子分析の結果(谷他, 2018)においても,類似の構造が確認されたが,理科に関する項目が存在しないことなどから因子数が減少していた。事前に想定された領域と合致,もしくは近い内容の因子や統合された因子が見られ,各因子が解釈可能であると判断し,項目の削除は行わず,得られた因子構造を採用することとした。
その後,項目を加算し8つの下位尺度得点を求め,各因子を説明変数,学力テストの正答率(国語A,国語B,数学A,数学B)を基準変数とした重回帰分析(強制投入法)を行った。分析の結果,国語Aに対しては,「言語活動への取り組み(β=-.15;p <.001)」,「規範・自尊感情(β=.10;p <.001)」,「基本的生活習慣(β=-.10;p <.001)」,「記述問題への取り組み方(β=-.31;p <.001)」「主体的・対話的な学習活動(β=-.10;p <.001)」の5因子が比較的高い説明力を有することが示された(R2=.226)。国語Bについても同じ5因子である「言語活動への取り組み(β=-.13;p <.001)」,「規範・自尊感情(β=.10;p <.001)」,「基本的生活習慣(β=-.09;p <.001)」,「記述問題への取り組み方(β=-.32;p <.001)」「主体的・対話的な学習活動(β=-.10;p <.001)」が高い説明力を示した(R2=.228)。算数Aに対しては,「算数への関心・意欲・態度(β=-.26;p <.001)」と「記述問題への取り組み方(β=-.30;p <.001)」「規範・自尊感情(β=.14;p <.001)」「基本的生活習慣(β=-.13;p <.001)」の4因子が高い説明力を示した(R2=.267)。算数Bについても同じく「算数への関心・意欲・態度(β=-.22;p <.001)」と「記述問題への取り組み方(β=.30;p <.001)」「規範・自尊感情(β=.15;p <.001)」「基本的生活習慣(β=-.12;p <.001)」の説明力が高かった(R2=.254)。平成27年度と同様に各因子は学力テストの成績に対して一定の予測力を有しており,これらの心理学的変数からの説明が頑健である可能性が示された。
付記本発表は文部科学省委託研究「平成28年度学力調査を活用した専門的な課題分析に関する調査研究」の一部である。

キーワード
学習状況/学力代理変数/質問紙調査


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