発表

1D-076

高校生におけるコンピテンシーおよび達成目標の学校間比較
多母集団同時分析を用いて

[責任発表者] 押尾 恵吾:1
[連名発表者・登壇者] 扇原 貴志:1, 岸 学:1
1:東京学芸大学

問 題 近年,児童生徒に育成すべき資質・能力として,客観的に物事の正しさを判断し,論理的に思考する力,他者とともに協力し合う姿勢など,多くの教科汎用的な能力が挙げられている(e.g. OECD, 2005)。関口(2017, 2018)は,こうした資質・能力(以降,コンピテンシーとする)の構成要素として7つの汎用的スキル(批判的思考力,問題解決力,協働する力,伝える力,先を見通す力,感性・表現・創造,メタ認知力)と7つの態度・価値(受容・共感・敬意,協力しあう心,よりよい社会を目指す意識,好奇心・探究心,正しくあろうとする心,困難を乗り越える力,向上心)を想定し,コンピテンシー尺度を作成した。コンピテンシーは,各学校において,教育目標・内容に合わせながら育成されるものであることを踏まえると,上述したコンピテンシー尺度は,各学校における資質・能力の育成を評価するための指標の1つとなりうるだろう。
 しかし,コンピテンシー尺度における,7つ(汎用的スキル)および7つ(態度・価値)の下位尺度から構成される因子構造が,学校が異なっても同様に当てはまるかについては明らかになっていない。コンピテンシーの育成は,カリキュラムの内容や学習者の能力など学校の特性に影響されると考えられるため,学校間における因子構造の等質性についての知見は重要であるといえるだろう。そのため,教育目標が異なる複数の学校においても,14個の因子構造の適合度が高いか明らかにすることで,コンピテンシー尺度の妥当性について検討することができる。
 そこで,本研究では,複数の学校においてコンピテンシー尺度について回答を求める調査を実施する。

方 法対象 東京都と広島県の3校(以降,それぞれA校,B校,C校とする)に在籍する高校生1533名のうち,質問紙調査の回答内容に不備が見られた者を除いた1409名(1年生577名,2年生572名,3年生260名;性別不問)を分析対象とした。
質問紙 コンピテンシー尺度(関口,2018)の全37項目と達成目標尺度の邦訳版(山口,2015)12項目を用いた。なお,本発表の目的とは異なるため,達成目標尺度の結果を報告しないことする。
調査時期 2018年11月から12月に,各学校で学級担任によって実施され,その場で回収された。

結 果 各学校ごとに,14個の下位尺度についてα係数を算出した。汎用的スキルについては,いずれの学校においても,先を見通す力,メタ認知のα係数の値が低かったものの,類似した概念である2つを合わせて1つの下位尺度を構成した。
 まず,学校ごとに個別に確認的因子分析を実施した結果,汎用的スキルについては,CFI = .976-.988,SRMR = .025-.036,RMSEA = .032-.044であった。態度・価値については,CFI = .923-.954,SRMR = .033-.048,RMSEA = .037-.058であった。いずれも高い適合度を得られたといえる。
 さらに,多母集団同時分析を実施し,配置不変性および測定不変性を検討したところ,最終的に採択されたのは,学校間で因子数,因子構造が共通しており,因子負荷が概ね共通しているモデルであった(汎用的スキルにおいては,χ2(630) = 13385.79,p<.001,CFI = .92,TLI = .91,SRMR = .05,RMSEA = .06,AIC = 70572.87,BIC = 71602.00であった。態度・価値においては,χ2(360) = 12035.57,p<.001,CFI = .95,TLI = .94,SRMR = .05,RMSEA = .07,AIC = 53784.34,BIC = 54682.20であった)。
 以上の結果を包括的に踏まえると,関口(2018)が作成したコンピテンシー尺度は信頼性および妥当性の高い質問紙尺度であることが確認された。

考 察 以上から,高校生においては,6つの汎用的スキルおよび7つの態度・価値については学校が異なっても同様の因子構造を想定できることが明らかになった。学校間で同様の因子構造がみられた理由として,コンピテンシー尺度の下位尺度には,批判的思考や問題解決といった高次レベルの認知能力が多く含まれていることが考えられる。本研究では,高校生を対象とした調査を実施しており,高校生においては高次の認知能力がある程度は形作られていることで,安定した因子構造が得られた可能性がある。そこで,今後は中学生を対象とし,同様の因子構造が得られるか確認する必要があるだろう。
 態度・価値においては,想定された7つの下位尺度について,複数の学校間で共通した構造を持つことが明らかになった。一方で,汎用的スキルにおいては,先を見通す力のα係数のみ,学校によって値が低かった(A校ではα= .55)。Weinstein & Mayer (1986) によれば,先を見通す力で用いた項目文は,メタ認知的モニタリングに含まれるプランニングと同内容といえる。また,本研究の分析においては,先を見通す力(2項目)とメタ認知(2項目)を合わせた1つの下位尺度とした際,α= .70-.77と,高い値を得た。そのため,今後,コンピテンシー尺度を用いる際,上述した4項目からなるメタ認知という下位尺度を構成する必要がある。

注)本研究は,東京学芸大学「次世代型コンピテンシー育成のための教育方法開発とその国内外への発信」(文部科学省機能強化経費「機能強化促進分」対象事業)の研究成果の一部である。

キーワード
資質・能力/21世紀型スキル/多母集団同時分析


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