発表

1C-077

教員志望学生に対する大学教師のキャリア支援モデルの生成
ナラティブ・インタビューによる探求

[責任発表者] 土元 哲平:1
[連名発表者・登壇者] サトウ タツヤ:1
1:立命館大学

【問題と目的】
 本研究では,①大学教師が日常的に用いているキャリア支援のモデルを生成すること,②教員志望学生であった第一著者の転機に対するキャリア支援の内実を,支援に携わった大学教師の視点から詳細に記述することを目的とした。
 第一著者は,大学院修士課程において,「教師になる」というキャリア決定を再構成する転機を経験した。その経験から,大学生が転機を乗り越えるためのキャリア支援の具体的方法に関する示唆を得ることを目的に,自らの転機経験を対象としたオートエスノグラフィー研究を行ってきた。本研究は,第一著者のオートエスノグラフィー実践として行ったものである。なお,オートエスノグラフィーとは,「人々の文化的経験〈ethno〉を理解するために,個人的な経験〈auto〉を記述して体系的に分析する〈graphy〉リサーチとライティングのための,ある1つのアプローチ(志向)」(Ellis, Adams & Bochner, 2011)とされる。

【方法】
 第一著者がこれまでのオートエスノグラフィーとして描き出してきた転機経験は,被支援者側の視点のみであった。そこで,支援者側(大学教師であるA先生)の具体的なキャリア支援のモデルを構築することで,転機への支援方法に関する,より多面的な理解を得ることができると考えた。そのため,本研究では,第一著者のオートエスノグラフィーに対し,羅生門的手法 (Lewis, 1959)を導入した。羅生門的手法とは,①出来事を個人の語る経験によって描くこと,②出来事を複数の視点から眺め,複数の経験を並列させて提示することを特徴とする(荘島,2018)。また,この手法では,③複数の「経験の物語」を重ね合わせることで出来事の多面性を明らかにすることが可能になる(荘島,2018)。
 具体的な研究方法としては,A先生に対する3回(各回,1時間程度)のナラティブ・インタビューを実施した。その理由は,日常的に行われているコミュニケーションの場面を理解するためには,ナラティブという単位から分析していくことが重要だからである(土元,2019)。A先生からの語りを促すための具体的な工夫として,これまで第一著者が実施したオートエスノグラフィーの成果(土元・サトウ,2018;土元・小田・サトウ,印刷中)をガイドとして用いた。インタビューの音声はボイスレコーダーにて録音し,終了後,文字起こしを行った。インタビュー・データをもとに,A先生と共同で,A先生のキャリア支援のモデルを生成した。

【結果】
 本研究で生成したA先生のキャリア支援モデルは次のようなものであった。①A先生は,社会との関係を考慮した〈なりたい自分〉像を,学生や他の人々とともに構築するための支援を実施していた。その支援では,②学生が自ら,キャリアの可能性を広げるために〈自分から飛び込んでいく〉,〈偶然に出会いにいく〉ことを目指していた。③そのための具体的な働きかけとして,〈道を示す〉,〈揺さぶる〉,学生の行動に対する肯定的な〈価値づけ〉といった直接的な介入だけでなく,〈見守る〉ことも支援の一形態とみなしていた。また,④学生が〈多様な人々と出会う機会を創出〉することで,学生が豊かにキャリア形成に取り組める場の構築を支えていた。

【考察】
 本研究で生成したキャリア支援モデルは,キャリア・アダプタビリティ(Savickas, 2002)発達の支援としても有用である。Savickas(2002)によれば,キャリア・アダプタビリティとは,「現在および予期された職業的発達課題に対処するための個人のレディネスおよび資源を意味する心理学的構築物」(p.156)である。Savickas(2002)によれば,キャリア・アダプタビリティには,関心(Concern),管理(Control),好奇心(Curiosity),自信(Confidence)という発達径路があるという。A先生が実践していた,〈道を示す〉,〈揺さぶる〉といった支援は,学生が自らのキャリアや自己のありように「関心」を持ち,自らのキャリアを「管理」することを促進するものであった。また,〈多様な人々と出会う機会の創出〉や,〈価値づけ〉は,学生が自らのキャリアに対し「好奇心」や「自信」を持ちながら探求するための支援として機能すると考えられる。本研究によって,キャリア・アダプタビリティの各次元にある教員志望学生に対する,体系的かつ具体的な支援方法が示唆されたといえる。
 オートエスノグラフィーは,研究者の文化的経験を扱うことを特徴としている。ただし,その起源をたどれば分かるように,自己の内的過程の探求のみに閉じたものではない(cf. Hayano, 1979)。近年でも,オートエスノグラフィーにおいて関係性のある他者を対象とすることが行われており(e.g. 沖潮,2013),他者経験理解を通した自己理解の深化が可能になっている。キャリア支援について扱う際にも,支援者の経験を検討する意義があるだろう。なぜなら,支援者のキャリア観には,支援者がそれまで関わってきた複数の他者の文脈が含まれているからである。研究者は,支援者の観点からキャリア支援経験を再検討することで,キャリア支援における自文化をより広い視点から理解を深めることができる。また,支援者の経験から生成されたモデルは,研究者だけでなく他の人々に対しても一定の転用可能性を持っている。このモデルと研究者自身のキャリア経験とを比較したり,同化することによって,より多くの他者に有効な支援方法を検討する可能性を拓くことができると考えられる。

キーワード
キャリア支援/高等教育/オートエスノグラフィー


詳細検索