発表

1C-072

学校規模の抑うつ予防介入実施に伴った教師のソーシャルスキルと心理的ストレス反応の変化

[責任発表者] 吉良 悠吾:1,2
[連名発表者・登壇者] 神原 広平:1, 重松 潤:1, 松本 美涼:1, 波光 涼風:1, 大島 陸:1, 満石 花歩:1, 野口 由華:1, 尾形 明子:1
1:広島大学, 2:日本学術振興会特別研究員

目的
 我が国の児童青年の抑うつ問題が顕在化してきたことから,抑うつ問題の解消を目的に,授業時間を用いて心理学的介入を実施する学校規模の抑うつ予防介入が実施され始めている(Kira et al., 2017; 石川他, 2009; 佐藤他, 2009)。特に,抑うつ予防のためには仲間関係といった学校環境の変容も重要であるため,多くのプログラムにおいてソーシャルスキルの向上を目指した介入が行われている。
 ところで,これまでの学校規模の抑うつ予防介入に関する研究では,介入効果について,生徒たちの変化に注目されてきた。しかし,学校規模の抑うつ予防介入を実施する場合,教師も介入に関わることとなる。そのため,学校規模の抑うつ予防介入は教師にとっても,抑うつに関する知識や,生徒や同僚といった他者との適切な関わり方について学ぶ機会となるだろう。したがって,学校規模の抑うつ予防介入の実施は,生徒だけでなく,その学校に所属する教師の変化にも影響すると考えられる。近年,教師の心理的ストレス反応が大きな問題として取り沙汰されているが,抑うつは心理的ストレス反応の一側面であり(鈴木他, 1997),ソーシャルスキルは心理的ストレス反応の低減にも有効であることが示されていることから(Segrin et al., 2007),本研究では,学校規模の抑うつ予防介入実施に伴った,教師のソーシャルスキルと心理的ストレス反応の変化について検討することを目的とする。
方法
 対象者 学校規模の抑うつ予防介入の実施がカリキュラムに含まれている,ある新設の定時制・通信制高校に所属する教師41名であった。
 手続き 生徒に対する抑うつ予防介入プログラムはKira et al.(2017)を参考に作成されており,ソーシャルスキルトレーニング,認知再構成法,アンガーマネジメント,問題解決訓練の4セッションから構成されていた。授業時間を用いて,各セッション3回の計12回行われ,1回100分の授業が休憩を挟んで行われた。プログラムは1年間にわたって行われたため,教師に対する調査は,抑うつ予防プログラム実施前の5月,中頃の10月,終了後の3月の計3回行った。
 分析対象者 3回の調査のうち,pre時点の調査に回答するとともに,計2回以上の回答が得られた26名(男性15名,平均年齢39.36歳,標準偏差11.21),を分析対象者とした。
 調査項目 ソーシャルスキル自己評定尺度短縮版(吉良他, 2018; 20項目4件法)と,心理的ストレス反応尺度(SRS-18)(鈴木他, 1997; 18項目4件法)を用いた。また,3回目の調査時に抑うつ予防介入への参加度を尋ねた結果,ほとんどの教師が,少なくとも指導案やワークシートの確認を行っていたことが確認された。
 倫理的配慮 本研究は事前に学校長から同意を得て行われており,対象者に対しても,紙面にて,回答は強制ではなく,回答の有無や内容によって不利益を被ることはないことなどを説明し,回答をもって同意を得たこととした。本研究は,広島大学大学院教育学研究科倫理審査委員会の承認を受けている。
結果
 教師のソーシャルスキルと心理的ストレス反応について,個人レベルでの縦断的な変化を測定するために,潜在曲線モデルを用いて分析を行った。その結果,ソーシャルスキルと心理的ストレス反応のそれぞれにおいて,有意な変化は認められなかった(M傾き=.17, n.s.; M傾き=.49, n.s.)。しかし,pre時点でのソーシャルスキルの高さによって,教師のソーシャルスキルや心理的ストレス反応の変化が異なる可能性が考えられた。そこで,pre時点でのソーシャルスキルの高さで平均値折半を行い(スキル高群・低群),スキル高群と低群で傾きと切片が異なることを仮定したモデルについて検討を行った。その結果,ソーシャルスキルの変化の傾きはスキル高群・低群で差が見られ(Β=-2.47, p<.01),スキル低群において有意な正の傾きが見られた(M傾き=1.69, p<.05)。同様に心理的ストレス反応についても検討を行った結果,変化の傾きはスキル高群・低群で差が見られ(Β=5.86, p<05),スキル高群では,有意傾向であるが正の傾きが見られ(M傾き=2.81, p=.09),スキル低群では,有意ではないが負の傾きが見られた(M傾き=-3.05, p=.15)。これらのことから,学校規模の抑うつ予防介入を実施したことで,ソーシャルスキルの低い教師ではソーシャルスキルが向上し,心理的ストレス反応も,ソーシャルスキルの高い教師よりも悪化しにくかった。
考察
 これまで,児童青年の抑うつ問題の改善のために学校規模の抑うつ予防介入が行われてきたが,本研究の結果,その波及効果として,教師にも良好な影響を与える可能性が示唆された。本研究では,その効果はソーシャルスキルの低い教師において見られたが,学校規模の抑うつ予防介入実施に伴った生徒の変化に関する先行研究でも,リスクの高い生徒においてより効果が高いことが示されているため(Stice et a., 2009),教師に対する波及効果においても同様の結果が得られたと考えられる。教師の負担が増加している我が国の現状を考慮すると(高木・田中, 2003),学校規模の抑うつ予防介入は学校全体の問題解決に寄与するかもしれない。また,学校規模の抑うつ予防介入による生徒への効果には,教師の生徒との関わりが大きく影響していることが示唆されている(Spence, 2009)。そのため,本研究の結果を加味すると,学校規模の抑うつ予防介入の効果には,教師のソーシャルスキルの向上による影響もあるかもしれない。今後,学校規模の抑うつ予防介入実施による教師への波及効果や,それが生徒の変化に与える影響についての研究が蓄積されることが期待される。

キーワード
教師/ソーシャルスキル/心理的ストレス反応


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