発表

1B-077

アイデンティティと保育現場実習における経験の捉えとの関係

[責任発表者] 原田 美代子:1
[連名発表者・登壇者] 中村 真理子#:1
1:四国大学

問題
 職業選択は,アイデンティティ確立が課題となる青年期の若者にとって中核的な要素であり(Erikson, 1959),自己概念が職業世界に表出する過程であるといわれている(Super, 1957)。特に,ある程度職業選択を行っている保育学生にとって就職の場となる保育現場での実習は,保育者としての技術やスキルを修得しつつ,自身の職業適性について吟味する場となっている(仙崎, 1990)。つまり,保育学生は保育現場実習を通して職業世界に自己を照らし合わせながらアイデンティティを確立させていることが考えられる。様々な学びが得られる保育現場実習での経験であるが,類似する経験であってもその捉えは異なることが明らかになっており(原田, 2019投稿中),アイデンティティの在り方に影響を受けていることが予想される。そこで本研究では,保育職への就職を志すもしくは就職が決定した保育学生を対象に,アイデンティティの在り方により,保育現場での実習経験の捉えがどのように異なるのかを明らかにしていく。
方法
手続き 調査時期:20××年1月。調査協力者:保育者養成大学の短期大学部2年生73名のうち保育者として就職活動中もしくは就職が決定し,全てのデータがそろっている66名を分析対象とした(男性:4名,女性:62名,平均年齢:19.95歳)。
調査内容 アイデンティティ尺度:谷(2001)が作成した多次元自我同一性尺度(以下,MEIS),20項目を7件法(1,全く当てはまらないー7,非常に当てはまる)で回答を求めた。この尺度は,自分が自分である感覚を示す「自己斉一性・連続性」,自分自身が目指すものへの明確さを示す「対自的同一性」,重要な他者から受け入れられている感覚を示す「対他的同一性」,自分と社会との適切な結びつきの感覚を示す「心理社会的同一性」の4つの下位尺度から構成される。さらに,これまで経験した各2回の保育,幼稚園実習(観察・本実習)への感想を自由記述で求めた。
分析方法 自由記述内容は,1つの記述内に複数の内容が含まれている場合は分割し分類した。本研究の自由記述に関する先行研究(原田ら, 2019投稿中)で明らかになった現場実習への捉えの観点を基に,10のカテゴリーを設定し(1:保育者からの指導の在り方,2:保育者の子どもとの関わり方からの学び,3:(自分の)子どもの関わり方・発達への理解,4:保育業務・日誌などの作業への感想,5:保育者の連携や自己管理,6:保育指導案や保育実践への理解,7:実習への感想,8:理想の保育・保育者像,9:保育職への意欲,10:自己達成・自己成長/失敗経験・不全経験)に分類した。さらにそれらの記述が肯定・否定どちらに捉えられているのかを分類した。分類は実習を担当する2名の研究者で分類した。
結果
 分析はHAD Ver.16.03 (清水,2016)を用いた。まず,MEISの4つの下位尺度への内的一貫性を検討した結果,自己斉一性・連続性(α=.89),対自同一性(α=.81),対他同一性(α=.81),心理社会的同一性(α=.83)と全て高く,分析に耐えうると判断された。一方,自由記述の各カテゴリーへの分類一致率は67.3%(312/462),肯定・否定への分類一致率は89%(410/462)であった。不一致の項目に関しては,両者の協議の上,分類を決定した。アイデンティティの4つの下位尺度が実習経験の捉えとどのように関連しているのかを検討するため,アイデンティティの各下位尺度の合計得点と自由記述の出現数との相関分析を行った(Table1)。このとき,出現数は正規分布していなかったため,順位相関係数を求めた。その結果,アイデンティティの斉一・連続性の側面と2:保育者と子どもとの関わりの肯定的な記述で有意傾向が確認された(p<.1)。また,4:否定的な行事の準備や環境構成,記録や日誌などの保育業務への理解と斉一性,対自同一性,心理・社会的同一性において負の相関が有意であった(p<.05)。
考察
 自己斉一性・連続性は,乳児期から培われる他者への基本的信頼感と関連していることが報告されている(谷, 2001)。そのため,斉一性・連続性の高い保育学生は,特に養護的な関わりを基礎とする肯定的で温かい保育者と子どもとの関わりに着目しやすくなったのだと考えられた。また,行事の準備や掃除,教材準備,子どもの記録などの保育時間外に行われる業務は,保育者業務として表に出にくいものの,安全な保育,環境を通した保育を実践するためには非常に大切な業務である。自分が目指す職業世界や目指す自己を明確に持ち,その社会の中で自己を発揮できるという感覚をもつ保育学生は,そうでない保育学生と比較して,保育を行う上で重要になるこれらの準備や記録への重要性を理解しているために,軽視したり,否定的に捉えたりする記述が少なくなっていたと考えられる。

キーワード
アイデンティティ/保育現場実習


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