発表

1A-083

大学生はどんなライフスキルを獲得したいのか
A大学における調査から

[責任発表者] 堀田 亮:1
[連名発表者・登壇者] 川上 ちひろ#:1, 佐々木 恵理:2
1:岐阜大学, 2:岐阜女子大学

目 的
 ライフスキルとは「日常生活で生じるさまざまな問題や要求に対して,建設的かつ効果的に対処するために必要な能力」(World Health Organization, 1994 川畑ら訳,1997)である。大学生年代を対象とした研究では,様々なカテゴリーが規定され,それらの育成を目指した心理教育プログラムが実践されてきた。実践に際しては,大学生自身がどのようなライフスキルを重要視し,身につけたいかを明らかにすることも必要であると考える。そこで,本研究はライフスキル獲得に関するA大学の学生のニーズを検討することを目的とする。

方 法
調査対象者:A大学(地方国立総合大学)の学生522名(男性295名,女性226名,不明1名,平均年齢18.86±1.13歳)を本研究の分析対象者とした。
調査時期:2018年10月に個別記入式質問紙調査を行った。
調査内容:青年・成人用ライフスキル尺度(嘉瀬ら,2016)を構成する「意思決定」,「対人関係スキル」,「効果的コミュニケーション」,「情動への対処」と,大学生における日常生活スキル尺度(島本・石井,2006)を構成する「親和性」,「リーダーシップ」,「計画性」,「感受性」,「情報要約力」,「自尊心」,「前向きな思考」,「対人マナー」と,A大学が教育目標として掲げる「基盤的能力」を構成する「進める力」,「伝える力」,「考える力」の計15項目について,(a)大学生にとってどのくらい重要だと思うか(5件法),(b)特に重要だと思うもの上位3つ(選択式),(c)大学生のうちに身につけたいと思うか(5件法),それぞれ回答を求めた。各項目がどのようなスキルであるか理解できるように,定義に沿った説明文を記載した。
倫理的配慮:実施に際し,岐阜大学大学院医学系研究科医学研究等倫理審査の承認を経た(承認番号:2018-140)。

結 果
大学生が重要だと思うライフスキル
 15項目のライフスキルについて,大学生にとってどのくらい重要だと思うかを尋ねた結果,「効果的なコミュニケーション(自分の考えを積極的かつ効果的に他者へ伝えるスキル)」と「伝える力(相手の状況や意見を理解し,自分の意見を伝えるスキル)」が特に高い結果(平均値4.5点以上)となった。一方で,「感受性(相手の気持ちに感情移入するスキル)」と「自尊心(ありのままの自分を肯定的にとらえるスキル)」は他と比較してやや低い結果(平均値4点未満)となった。
 選択式の重要度は,1位を3点,2位を2点,3位を1点に重み付けして計算した結果,1位は「効果的コミュニケーション」(449点),2位は「対人関係スキル(他者の気持ちを想像し,共感を言動で表現するスキル)」(358点),3位は「計画性(見通しや優先順位を決めて物事を進めるスキル)」(268点)であった。一方で,下位3つは,「情動への対処(自分の感情を効果的にコントロールするスキル)」(78点),「自尊心」(43点),「感受性」(21点)であった。

大学生が学生生活のうちに身につけたいライフスキル
 15項目のライフスキルについて,大学生のうちにどのくらい身につけたいと思うかを尋ねた結果,「効果的コミュニケーション」,「進める力(計画を立て,自分をコントロールし,実行するスキル)」,「伝える力」,「考える力(現状を分析し,新しい価値を生み出すスキル)」が特に高い結果(平均値4.5点以上)となった。一方で,重要度の結果と同様に「感受性」と「自尊心」は他と比較してやや低い結果(平均値4点未満)となった。

考 察
 本研究から,A大学の学生は主にコミュニケーションやプランニングに関するライフスキルを重要視し,獲得したいと望んでいることが示された。また,どのくらい身につけたいかはA大学が掲げる「基盤的能力」が高い得点を示しており,教育目標が学生のニーズに合致していることが示唆された。一方で,「感受性」,「自尊心」,「情動への対処」といった感情面に関するライフスキルは低い結果となった。コミュニケーションやストレスマネジメントにおいてこれらのスキルは必要であると考えられるが,A大学の学生に関しては重要であるとの認識には至っていないことが示された。
 本研究のようなニーズ調査を心理教育プログラム実践の前に実施することは必要かつ有益である。今後A大学では,対人コミュニケーションや「基盤的能力」に焦点化した内容を提供することが有効であり,感情面のライフスキルに焦点を当てる場合は,その重要性に気づかせるような工夫が必要であろう。

引用文献
嘉瀬貴祥・飯村周平・坂内くら・大石和男(2016). 青年・成
 人用ライフスキル尺度 (LSSAA) の作成 心理学研究, 87,
 546-555.
島本好平・石井源信(2006). 大学生における日常生活スキル 尺度の開発. 教育心理学研究, 54, 211-221.
WHO 川畑徹朗・高石昌弘・西岡伸紀・石川哲也・JKYB研究会  (1997). WHO ライフスキル教育プログラム 大修館書店

付記
 本研究は,2018年度日本心理臨床学会研究助成を得て実施された。

キーワード
ライフスキル/ニーズ調査/大学生


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