発表

1A-081

中学生の数学の成績に及ぼす短期構造化筆記開示の効果

[責任発表者] 則武 良英:1
[連名発表者・登壇者] 湯澤 正通:1
1:広島大学

 問題
テスト不安とは,テスト状況で特異的に生じる不安で,数学成績に負の影響を及ぼす(von der Embse et al., 2018)。テスト不安が最も顕在化するのは中学生であるため,中学生のテスト不安を緩和する介入が必要である。テスト不安を緩和する介入として,Ramirez & Beilock(2011)は短期筆記開示を開発した。短期筆記開示とは,テストの直前に不安を白紙に自由に書き出す介入方法である。筆記により不安を言語化することで,認知の変容が生じて(Park, Ramirez, & Beilock, 2014),テスト中の不安思考が緩和される(Schroder et al., 2017)ことが示されている。
短期筆記開示研究の主な対象は大学生であり,中学生に適用可能な筆記は存在しない。中学生は感情制御能力が未発達であるため白紙に自由に筆記するだけで認知変容が生じないが,筆記を構造化することで中学生にも適用できる可能性がある。
本研究の目的は,短期構造化筆記開示が中学生のテストへの不安を減少させ,数学成績に正の影響を及ぼすか明らかにすることである。不安で学業成績が低下しているのは,テスト不安の高い生徒のみであることから,不安減少と数学成績の性の関係はテスト不安が高い生徒でのみ生じることが予想される。また,不安以外の効果も想定し,認知変容の感情制御能力である「認知的再評価」とテスト勉強への取り組みの態度である「テスト課題対処」の測定も行う。
 方法
参加者: 中学生146名(平均年齢 = 13.92,SD = .27)を対象とした。短期構造化筆記開示: Ramirez & Beilock(2011)の短期筆記開示を基にして,伊藤・佐藤・鈴木(2009)を参考に構造化を行なった。短期構造化筆記開示では,テストの不安な事柄を筆記した後に,肯定的な側面に焦点化して筆記させることで,認知の変容を促した。肯定的側面にフォーカスさせる工夫として,佐藤他(2009)と同様に「もし友人も自分と同じ状況だったらどのようにアドバイスしますか?」と尋ねて筆記することを求めた。最後には,アドバイスを書いてみて気づいたことを筆記した。使用尺度: テスト不安を測定するために,Friedman Test Anxiety尺度日本語版(6件法,23項目; Friedman & Bendas-Jacob, 1997; 松原・岩瀬・蔵下・松永,2001)を使用した。短期構造化筆記開示の効果を調べるために,筆記のワーク内で不安の程度を尋ねた(10 件法1項目)。認知的再評価の指標として,小学校高学年・中学生用情動制御尺度(杉山他, 2017)の認知的再評価項目(4件法5項目),テスト勉強への取り組みの姿勢として学習態度尺度(児玉・石隅, 2015)のテスト課題対処項目(5件法,4項目)を使用した。学業の指標として,介入後に実施される数学のテスト成績を使用した。手続き: テスト不安を1日目に測定し,テスト課題対処と認知的再評価は2日目にプレ,5日目にポストが測定された。短期構造化筆記開示は3日目と4日目に実施され,不安の程度の測定3日目にプレ,4日目にポスト得点が測定された。調査と筆記ともに実施時間は1日あたり10分で,5日目はテスト本番の3日前に実施された。
 結果
テスト不安の高低群を比較するために,テスト不安の平均値を基準にして,テスト不安高群(M = 12.8)と低群(M = 10.2)に群分けを行った。次に,不安得点とテスト課題対処得点,認知的再評価得点を従属変数とするテスト不安(高群・低群)×介入(プレ・ポスト)の2要因の分散分析を実施した。その結果,不安においてのみテスト不安と介入の交互作用が有意であった(F(1,66)= 11.20,p < .01,ηp 2 = .07)。単純主効果検定の結果,介入の単純主効果がテスト不安高群(p < .01)とテスト不安低群(p < .01)の両群で有意であった。テスト課題対処得点と認知的再評価得点においては,交互作用は有意ではなかった。したがって,テスト勉強という行動や認知的再評価という特性の変化は生じず,テストへの不安感情のみが減少したことが示された。
 介入による不安減少効果が数学成績に正の影響を及ぼすか調べる必要がある。そこで不安レベルのプレ得点とポスト得点の差の値を,不安減少量(高群M = 1.68 , 低群M = .97)とした。そして数学成績を従属変数,不安減少量を独立変数とする単回帰分析を実施した。その結果,テスト不安高群では不安減少量(β= .24, t = 2.10, p < .05)は有意であった。一方で,テスト不安低群では不安減少量(β = .01, t = .12, p = n.s.)は有意ではなかった。テスト不安高群でのみ不安減少量は数学成績を予測した。
 考察
 テスト不安高群で不安減少量と数学成績に正の関係が示されたことから,短期構造化筆記開示はテスト不安の高い生徒に有効な介入方法であることが示された。行動や特性指標で変化がなかったことから,筆記により感情制御に最適な機会が一時的に作り出された(Park, DeCaro, & Beilock, 2014)ため,不安が減少した可能性がある。今後は,他のサンプルでの追試や筆記の効果の個人差要因の特定などが必要である。

キーワード
テスト不安/短期筆記開示/中学生


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