発表

1A-080

中途退学・休学をした大学生の精神的健康度の特徴に関する研究
中途退学・休学をした学生と進級をした学生のUPI-RSスコアの比較

[責任発表者] 榎本 光邦:1
1:群馬パース大学

 【 目 的 】
 現在,わが国では大学入学者の8~10%程度が中途退学(以下中退と表記)している。2012年に文部科学省が大学中退に関する初めての全国調査を行い,中退防止策を検討する方針を発表するなど,大学中退問題への対応は大学教育における喫緊の課題の一つであると考えられる。内田(2014)の調査では,2005年から2011年の間,中退の理由の上位3位は一貫して変動がなく,1位が消極的理由,2位が積極的理由,3位が環境要因であり,「消極的理由」の背景には少なからず精神的な健康度が低いことがあることを指摘した。 
 学生の精神的健康を測定する代表的な尺度にUPI(University Personality Inventory)がある。UPIは1966年に全国大学保健管理協会によって作成された60項目の尺度であり(平山・全国大学メンタルヘルス研究会,2011),作成当初は各項目について「ある・ない」の2件法で回答を求めていたが,その後,学生の状態をより正確に把握するために,4件法で回答を求めるUPI-RS(高橋・小林,2004)や5件法で回答を求めるUPI-GR(酒井,2015)が作成された。UPIは全般的な精神的健康の測定だけでなく,抑うつ症状や対人症状など,多面的な測定も可能な点に特徴がある。全国の大学では新入生のスクリーニング調査目的で使用されることが多く,これまで授業への出席状況(高岸・櫻井・橋根・菅野・安東,2013)や退学(岡・吉村・山崖,2015),大学適応(武蔵・箭本・品田・河村,2012)といった指標との関連が検討されてきた。その一方で,スクリーニング調査にかけられる時間の確保が難しい場合が多いという現実的な制約から,限られた時間で実施可能な短縮版の作成が強く求められているとの指摘もあり,UPI 16T(酒井・松井・四間丁,2011)やUPI-RS短縮版(高橋・岩渕他,2014)等が開発された。 
 本研究では,中退した学生,休学した学生,進級した学生のUPI-RS各60項目のスコアの差を調べる。そして,中退した学生や休学した学生と進級した学生のスコアの間に差がある項目を明らかにすることで,UPI-RSを大学生の中退・休学予防のためのスクリーニングテストとしてより有効に活用できるようになることを目的とする。 

 【 方 法 】
対象者 関東圏内の私立大学の1~4年生1,139名
質問紙 学生精神的健康調査改訂版(UPI-RS)60項目(高橋・小林,2004)を用いた。
手続き 2~4年生までは新年度のガイダンス時に,1年生は大学入学後から2か月程度経過した時点で,質問紙を一斉配布し,回答を求めた。なお,本研究は著者が所属する大学の研究倫理委員会の承認を得て行った。
分析方法 UPI-RSの各項目について,正規性の検定を行ったところ,全項目について正規性は認められなかった。そのため,中退群,休学群,進級群のUPI-RS各60項目のスコアについてKruskal-WallisのH検定を行った。 

 【 結 果 】
 Kruskal-WallisのH検定を行った結果,以下の8項目について,有意差が見られた。項目の先頭の数字は,UPI-RSの項目番号を表す。 
8.自分の過去や家族は不幸である (p=.041)
 中退群>進級群(調整済みp=.041)
10.人に会いたくない (p=.016)
 中退群>進級群(調整済みp=.024) 
12.やる気が出てこない (p=.006) 
 中退群>進級群(調整済みp=.008) 
13.悲観的になる(p=.010) 
 中退群>進級群(調整済みp=.018) 
22.気おくれする(p=.047) 
 中退群>進級群(調整済みp=.050) 
43.つきあいが嫌いである(p=.042) 
 中退群>進級群(調整済みp=.043) 
59.他人に相手にされない(p=.010) 
 中退群>進級群(調整済みp=.013) 
60.気持ちが傷つけられやすい (p=.023)
 中退群>進級群(調整済みp=.040) 

 【 考 察 】
 中退群,休学群,進級群のUPI-RSのスコアに有意差が見られた8項目について,いずれも中退群と進級群の間に差が見られた(中退群>進級群)。休学群と進級群の間に差が見られなかったのは,休学群の学生の多くは復学を目指しており,中退群ほどは精神的健康度が低くないためであると考えられる。 
 有意差が見られた8項目は,身体的な症状に関する項目を含まず,対人関係(項目10,43,59)や感情・意欲(項目12,13,22,60),自己に関する認知(項目8)から成り立っている。このことから,大学生の学校適応には,単に精神的な健康度だけではなく,対人関係や自身についての認知も影響を及ぼしていると考えられる。
 また,有意差が見られた8項目のうち,4項目がUPIの短縮版であるUPI 16Tの項目として抽出された項目であった。このことから,本研究で有意差が見られた8項目について,スクリーニングテストの項目として一定の妥当性が担保されていると考えられる。 

キーワード
中途退学/精神的健康度/UPI-RS


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