発表

1A-079

学生相談機関におけるカウンセラーの言語的応答が相談者の自己開示に及ぼす影響

[責任発表者] 細羽 竜也:1
1:県立広島大学

問題と目的
 近年,メンタルヘルスや心の教育の重要性が注目され,問題を抱えた学生に対し心理的支援を行う学内機関として学生用の相談機関を設置し,専任のカウンセラーを配置する大学が増加した。背景として,様々な心の問題を抱えている大学生が増加し,その結果,不登校や不本意な休退学をする学生が増えていることが指摘されている(文部省,2000)。実際,学生相談機関への来談率は,2003年の2%台後半から2012年,2015年には5%近い数値にまで上昇しているという(吉武,2018)。一方,来談した学生と,常に安定した相談支援関係が構築できるとは限らない。そもそも学生には,来談しての相談に抵抗感があり,援助を必要としながらも,学生相談機関の利用につながらないことがある(木村,2017)。また,カウンセリングへの不信や不安から,内面性の深い自己開示に至るどころか,援助の中断に至ることもあり得る。そこで本研究では,学生相談機関に来談した学生がカウンセラーに内面性の深い自己開示を行うための要因を,言語的応答を手掛かりに検討することにした。
方法
1.調査協力者と調査時間:56人の大学生(男性14人・女性は43人)が調査に協力した。平均年齢は23歳であった。調査時間は,約1時間であった。
2.調査手続き:質問紙を用いて,調査協力者が相談者となった場合のカウンセラーとの相談場面を想定させた。その際,以下の5つの開示内容を順番に開示して相談する場面であることを教示した。
【開示1】「私とクラスメートAさんは,クラスでは別のグループではあるが,授業中などは他のクラスメートと同じように接している。」
【開示2】「私とAさんは同じサークルで,Aさんはサークル内で先輩に無視されたり陰口を言われたりしている。」
【開示3】「サークルの場では,私もAさんに対して冷たい態度をとってしまう。」
【開示4】「Aさんに対しては,とても後ろめたい,申し訳ないという気持ちである。」
【開示5】「サークル内で自分まで周囲から冷たくされること,孤立することが嫌でAさんと仲良くすることが出来ない。」
 1~4の開示内容ごとに,12項目のカウンセラーの言語的応答を設定した。その応答ごとに,次の開示内容の話しやすさ(0~10点:11件法)を評定させた。また開示内容ごとに,カウンセラーが最も話しやすい応答をした場合のその後の開示内容の話しやすさ(1~5点:5件法)も評定させた。
3.倫理的配慮:(1)調査の目的や内容・方法,(2)調査時期・時間,(3)調査協力の自由意志と拒否権,(4)個人情報の保護について,文書・口頭で説明し,そのとおりに実施した。
結果と考察
1.開示1~4におけるカウンセラーの応答ごとの話しやすさの評定間の比較
 開示1~4ごとに設定した12項目のカウンセラーの言語的応答への評定の違いについて,1要因分散分析を用いて検討を行った。まず開示1については,「あなたとAさんはクラスでは普通に接していらっしゃるけど別のグループなんですね(繰り返し)」に対する話しやすさの評定が最も高かった(M=6.02;F(8.33, 441.59)=13.84, p<.001, ε=.76)。開示2については,「よく相談に来てくださいましたね(是認)」(M=7.20:F(7.48, 381.70)=27.75, p<.001, ε=.68),開示3については,「サークルのほかの人たちの目が気になってそういう行動をしてしまうんですね(言い換え)」(M=7.16:F(7.53, 376.23)=18.62,p<.001, ε=.68),開示4については,「だからあなたは辛い思いをしているんですね(感情の反映)」(M=7.31:F(7.46, 365.73)=18.47, p<.001, ε=.68)という応答が最も話しやすいと評定されていた。
 これらの結果は,相談者への是認と傾聴とを重視したカウンセラーの応答が,相談者の話しやすさを促進することを示唆している。なお,話しやすい応答への調査協力者の印象について,傾聴技法に関わる応答については主に「共感や理解」などを印象づかせ,是認については主に「受容」などの印象を受けていたことも示された。
2.話しやすい言語的応答が相談者の自己開示に及ぼす影響
 直前の面接応答場面で話しやすいと感じられる相談対応を受けたとすると,いずれの開示内容についても「話しやすさ」の評定値が高くなり,その評定は開示と応答の場面を繰り返すごとに増加することが明らかになった(開示3,t(55)= 4.02, p<.001;開示4,F(1.76, 97.00)=6.02, p<.001, ε=.88;開示5,F(1.98, 109.12)=12.44,p<.001, ε=.66)。つまり相談者にとって「話しやすい」応答を受けることにより,開示5のように否定的な開示内容も話すように動機づけられる可能性が考えられる。
引用文献
木村真人 2017 悩みを抱えていながら相談に来ない学生の 理解と支援─援助要請研究の視座から─, 教育心理学年 報,56, 186-201.
文部省高等教育局・大学における学生生活の充実に関する調 査研究会 2000 大学における学生生活の充実方策につい て(報告)―学生の立場に立った大学づくりを目指して.
吉武清實 2018 大学における学生相談の現状と課題 学生 相談機関の整備・充実化の視点から―. 東北大学高度教養 教育・学生支援機構紀要,4,19-28.

キーワード
自己開示/カウンセリング/傾聴


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