発表

1A-078

中学校理科の観察・実験において研究不正は生起しうるのか?その背景は何か?
認知された教師の態度と考察に対するコスト感に着目して

[責任発表者] 原田 勇希:1,2
1:日本学術振興会特別研究員PD, 2:高知大学

問題と目的 研究者集団にとって研究公正(研究不正)の問題は向き合い続けなくてはならない不易のテーマである。また企業での商品開発においても不正行為は問題であり,研究公正の教育は研究者に限らず重要である。
 近年では大学以前の研究公正教育の重要性が指摘されている(大橋,2018)。特に中学校理科は「観察,実験を行うことなどを通し」た「科学的に探究するために必要な資質・能力」の育成が目的であり(文部科学省,2017),研究公正の教育はその目的に沿う。しかし,学習指導要領や教科書にその記述はなく,現状十分に指導されていない。
 本研究は探究活動の萌芽である中学校理科を対象に,観察・実験における不正行為が生起しうるものであるか分析し,またその促進要因を検討することを目的とした。

方法研究対象者 学校長と理科教員,生徒の許可を得て公立中学校1校の生徒(n = 350)を対象とした。
公正な探究活動実践尺度(Research Integrity Questionna-ire for Students ; RIQS) 捏造・改ざん・盗用を中心とした(一部,QRPsを含む)17項目とフィラー項目3項目を作成した(全20項目,頻度に関する5件法)。
公正な探究活動に関する知識 RIQSの各項目に対し,“行っても良い”,“行って良いかは場合による”,“絶対に行ってはいけない”と考えているかを尋ねた(3件法)。
認知された教師の考察重視 教師が “正しい結果”と“深い考察”のどちらをより重視していると思うかを尋ねた(6項目,5件法)。
考察に対するコスト感(以下,コスト) 期待通りの結果でないときの考察に対するコスト感を測定した(4項目,5件法)。
統計的分析 MCMC法によるベイズ推定法によった(チェイン数4,反復数80000,バーンイン20000,事前分布は無情報,間引き間隔2, all Rhats<1.05)。

結果と考察1 RIQSの各項目の統計モデリング 
 フィラー項目を除く17項目の回答をカウントデータとみなし,Poisson分布とZero-Inflated Poisson(ZIP)分布によるモデリングを行った。全項目でZIP分布の適合が良かった(all WAICs : ZIP<Poisson)。パラメータθ(Poisson分布に従い回答が決まる確率≒不正行為が生起しうる確率)を参照すると,項目2(最初の予想と少し違う結果になったので,本当のデータから少しだけ変えて,きれいなデータに書きかえたことがある; θ= 0.62 [0.54, 0.70])などは高かった。反対に項目15(スケッチは実物を見なくても描ける実力があったので,本物ではなく自分の知識をつかって描いたことがある; θ= 0.12 [0.08, 0.16])は低かった。内容により生起確率は異なり,また内容により不正をしない生徒の方が多いものの,θが10〜60%程度であったことから,中学校理科の観察・実験では不正行為が生起しうるといえる。
2 認知された教師の考察重視とコストによる影響
 RIQSにカテゴリカル因子分析モデルを適用し,潜在因子(不正行為傾向)を目的変数,認知された教師の考察重視とコスト,および交互作用項を説明変数とした回帰モデルを設定したところ(Figure 1),交互作用が認められた。単純傾斜分析を行ったところ,認知された教師の考察重視による調整効果があった(Figure 2)。この結果は,教師が「正しい結果が重要なのではなく,失敗した理由を考察することが重要」と伝えることには不正行為の抑制効果があるが,たとえそのメッセージが伝わっていても,生徒が考察に対してコストを感じていると不正行為が生起しうることを示す。

主な引用文献大橋淳史 (2018). 13歳からの研究倫理:知っておこう!科学の世界のルール 化学同人

キーワード
研究公正/研究倫理/理科教育


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