発表

1A-077

生徒が自分の関心を行動に移すにはなにが必要か:計画的行動理論とワクワク感による実証研究

[責任発表者] 正木 郁太郎:1
1:東京大学

背景
 昨今日本の中等教育では,探究型学習に代表される「自ら問いを立て,学び,考えること」が重視されている。他方,特に日本の学校現場において,生徒が自分が関心を持った「何か」に対して行動を起こす過程のモデル化は進んでいない。本研究では計画的行動理論(Ajzen, 1991)と「ワクワク感」に注目し,この点の実証研究を試みた。
 計画的行動理論(Ajzen, 1991)とは,人の行動を「態度」「主観的な規範」「行動の統制可能性」で説明する理論であり,様々な行動の説明に幅広く用いられている。本研究ではこのモデルで中心的な要因である(行動に対する)「態度」として,生徒の「ワクワク感」に注目した。ワクワク感を定義した研究はほとんどないが,先行研究では興味のある分野で新しく何かを知ることへの期待と楽しく思うこと(伊藤ほか, 2017),などと定義されている。こうした研究をもとに,本研究ではワクワク感が行動を志向する態度や強い動機づけになると考えた。
方法
 日本の公立高校5校で調査を実施した。回答数は658名,うち欠損がない433名を対象とした。代表的な質問は次の通り。1) 今関心があるものを自由記述で挙げる。2) 関心対象に対してワクワクする感覚があるか(全体的な感覚を1問11件法で回答,その他個別の感覚も13項目で回答)。3) 関心事に対して取った行動(「自分で本を読んだ」「学校の先生に質問したり,話したりした」など8項目からあてはまるものをすべて選択)。4) 主観的な規範(関心対象にワクワクし,行動することに周囲は賛成かどうか。「学校の先生」など4項目4件法)。5) 行動の統制可能性(関心対象について自分で行動を取れると思うか。3項目4件法)。6) 性格特性(西川・雨宮(2015)より拡散的好奇心・特殊的好奇心を各3項目)。
結果
 行動の種類を合計し「行動得点」を作成した(4個以上は「4」として再カテゴリ化。Mean = 1.69, SD = 1.29)。選択されやすい行動は「インターネットで調べた」(243名),「友人に質問したり,話したりした」(122名)などの,自分の手が届く範囲の行動が多かった。一方で選択されにくい行動は「学外の人に質問したり,話したりした(専門家など)」(37名),「学校の先生に質問したり,話したりした」(44名)などが多かった。
 仮説検証のために共分散構造分析を実施,統計的に有意でない変数・パスを削除し,図の結果が得られた(AGFI = .96, CFI = 1.00, RMSEA = .00)。まず生徒のワクワク感を高める要因として,拡散的好奇心,主観的な規範,行動の統制可能性の効果が統計的に有意だった。対して行動の数については,ワクワク感と行動の統制可能性が行動の数を増やし,高学年になるほど行動の数が減少する効果が統計的に有意だった。以上より,自分の関心事を行動に移す過程に,主観的な規範と行動の統制感,そして態度としてのワクワク感が影響するという本研究の仮説が概ね支持された。
考察
 本研究の結果は,生徒が自分の関心を行動に移すには,好奇心が強いだけでなく,強い行動への動機づけであるワクワク感の上昇が重要だと示唆している。またこれらの内面的な要因に加えて,周囲の環境や支援も重要だといえる。具体的には,1) 関心を表出することを周囲が歓迎すること(主観的な規範),2) 関心事を自分で調べられる,または周囲に話をしやすい環境(行動の統制可能性)などが重要と考えられる。 限界としてワクワク感の測定が粗いことがある。性格としての好奇心との相関は高くなく,好奇心と異なる「行動への動機づけ」を含む概念だと推測されるが,関連する諸概念との弁別可能性は明らかでない。また応用的には,探究型学習など,生徒がどのような体験をすることがワクワク感や行動意図につながるのか,具体的な施策の検討も重ねる必要がある。
引用文献
Ajzen, I.(1991). The theory of planned behavior. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 50, 179-211.
伊藤弘大・原田圭裕・木代優・冨山剛・中辻晴彦・舘陽介・瀬戸洋紀・大倉典子(2017). 整理指標を用いた社債機器の情報提示による「わくわく感」の評価―車外風景に関する事前情報付与の影響のHRV解析 日本感性工学会論文誌, 16(3), 321-331.
西川一二・雨宮俊彦(2015). 知的好奇心尺度の作成―拡散的好奇心と特殊的好奇心― 教育心理学研究, 63, 412-425.
謝辞
本研究は調査対象となった学校の先生方の同意とご協力のもと,回答範囲も任意で進められた。ご協力に感謝の意を表したい。また本研究は株式会社リバネス教育総合研究センターと実施した。

キーワード
計画的行動理論/わくわく感/好奇心


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