発表

1A-076

大学生の抑うつ傾向に対する介入効果の検討(6)
反すうと自律性欲求が抑うつの変化に及ぼす影響

[責任発表者] 松本 麻友子:1
[連名発表者・登壇者] 中島 奈保子:2
1:神戸親和女子大学, 2:中部大学

 問題と目的
 近年,軽度の抑うつ状態は大学生でも日常的に経験されることが多く,予防的介入の重要性が指摘されている(及川・坂本, 2007)。本研究では松原(2003)による生活分析的カウンセリング法(LAC法)を大学生に実施し,抑うつに対し低減効果がみられるかについて検討を行う。LAC法は行動療法の一種であり,従来は無気力傾向の学生の治療法として用いられてきた技法である。Matsumoto & Nakashima(2016)や松本・中島(2017)ではLAC法が大学生の抑うつ悪化を抑える効果を見出しており,LAC法の有効性が示されている。
 しかし,LAC法は目標を細分化し,達成の有無を学生自身で振り返るため,反すうを行いやすい人は達成できなかった目標や失敗状況に注目することによって,かえって抑うつを悪化させる可能性も示唆される。また,自ら目標を設定し行動していくLAC法の手法は,学生の自律性欲求の程度によっても効果が異なると考えられる。今後,LAC法の有効性をさらに高め,効果的に活用するためには効果の個人差を検討し,介入方法の改訂を行う必要があると考えられる。
 そこで,本研究ではLAC法による抑うつ低減効果に影響を与える個人特性として反すうと自律性欲求に着目し,効果の差異について検討することを目的とする。

 方 法
調査対象者 心理学関係の授業を受講する大学生462名とした。そのうち,有効回答数355名(男性184名,女性171名,平均年齢19.64歳,SD=0.96,有効回答率76.84%)を分析の対象とした。介入群(LAC法実施群):大学生247名(男性135名,女性112名,平均年齢19.72歳,SD=1.05)を対象とした。講義は選択科目で,ガイダンス時に講義内容にそった内容でLAC法を行うことを説明し同意を得た上で実施した。統制群:介入群とは異なる心理学関係の授業を受講する学生108名(男性49名,女性59名,平均年齢19.45歳,SD=0.66)を対象とした。なお,本研究のデータは2015年度から2017年度に実施したデータの合算である。各年度の集団間における各尺度の級内相関係数は有意ではなく,各年度の違いによる各尺度得点への影響は少ないと判断した。
質問紙の構成 反すう:松本(2008)による拡張版反応スタイル尺度の下位尺度の中で反すうを表している「問題への直面化」と「ネガティブな内省」を用いた(4件法)。抑うつ:島他(1985)によるCES-Dの日本語版を用いた(4件法)。自律性欲求:安藤(2006)による自律性欲求尺度を用いた(5件法)。この尺度は「自己決定」と「独立」の2つの下位尺度で構成されている。
手続き 調査は講義時間の一部を利用して質問紙を配布し,集団で実施した。介入群では1回目の質問紙調査(Time1)を行い,続いて1回目のLAC法を実施した。さらに,1か月後に2回

目の質問紙調査(Time2)と2回目のLAC法を行い,さらに1か月後に3回目の質問紙調査(Time3)を実施した。Time1では反すうと自律性欲求,抑うつを測定し,Time2とTime3では抑うつのみ測定した。また,統制群では介入群と同時期に質問紙調査を行った。なお,本研究のLAC法は中島・松本(2014)や松本・中島(2017)の手続きを参考にした。

  結果と考察
LAC法による抑うつ低減効果 Time1の各尺度得点において群間に有意差がないことを確認し,Time1からTime2,Time3にかけての抑うつ得点の推移について群(介入群・統制群)×時期(Time1・Time2・Time3)の2要因分散分析を行った。その結果,群の主効果(F(1,353)=4.71,p<.05,ηp2=.01),時期の主効果(F(2,706)=7.13,p<.01,ηp2=.02)と群×時期の交互作用(F(2,706)=3.52,p<.05,ηp2=.01)が有意であった。そこで単純主効果の検定および多重比較を行ったところ,介入群ではTime1からTime3まで抑うつ得点に有意差はなかったが,統制群ではTime1よりTime3の方が有意に抑うつ得点が高いことが示された。さらに,Time3では介入群より統制群の方が抑うつ得点が高いことが示され(p<.01),LAC法は効果量が小さいながらも先行研究と同様に抑うつの悪化を抑える効果があることが示唆された。
抑うつ低減効果の個人差 反すうと自律性欲求が抑うつに及ぼす影響について個人の変化の軌跡から検討するため,介入群を対象に潜在曲線モデルを用いて分析した。問題への直面化とネガティブな内省,自己決定および独立の得点から切片と傾きに対して一方向のパスを引き,これらの4つの得点間に相互相関を仮定した。その際,3時点で観測された抑うつ得点の傾きが直線で表現できない可能性を考慮し,非線形モデルにデータをあてはめた。各種の適合指標を参考にしながら分析し,モデルを作成した(χ2(8)=2.160,n.s., CFI=1.000, RMSEA=.000)。推定された切片の平均値は25.22(p<.001, SE =5.42),傾きは6.38(p<.05, SE=3.07)であった。切片に対する問題への直面化の非標準化推定値は-3.20(p<.01),ネガティブな内省の非標準化推定値は2.35 (p<.01)であった。従って,問題への直面化とネガティブな内省は介入前の抑うつの高さに影響することが明らかとなった。さらに,傾きに対する自己決定の非標準化推定値は-1.68(p<.05)であったことから自己決定の高さが抑うつの低減に寄与していることが見出された。個人の自己決定の水準は固定化されたものではなく,活動への関与を通して変化すること(竹村, 2010)を踏まえると今後は,LAC法に自己決定を高めるアプローチを取り入れることが求められる。

〈謝辞〉
本研究はJSPS科研費 JP16K21523の助成を受けたものである。

キーワード
生活分析的カウンセリング法/反すう/自律性欲求


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