発表

3B-068

日本語版Imposing Memory Task(IMT-J)の開発(2)
成人サンプルを対象とした検討

[責任発表者] 平島 太郎:1
[連名発表者・登壇者] 五十嵐 祐:2,3
1:愛知淑徳大学, 2:名古屋大学, 3:メルボルン大学

目 的
人間の社会的ネットワークは,他の霊長類よりも大きなことが知られている。社会脳仮説(e.g., Dunbar, 2014)では,心の理論やメンタライジングとよばれる,他者の意図や感情といった心的状態を推測する社会的認知機能が,社会的ネットワークの心理基盤として重要視される。しかし,メンタライジング能力の高さと社会的ネットワークのサイズとの関連を直接的に検討した実証研究はごくわずか(Dunbar & Stiller, 2007)であり,社会脳仮説の理論的な妥当性は十分に検証されていない。本研究では,Dunbarらの研究において用いられたメンタライジング能力の個人差を測定する課題であるImposing Memory Task(IMT;Kinderman et al., 1998)の邦訳版を開発する。すでに,平島・五十嵐(2018,社心59回大会)により邦訳されたが,サンプルが大学生に限られていたことや,設問の不備といった問題があった。そこで本研究では,より幅広い年齢の成人を対象にデータを収集し,日本人におけるIMT-Jの性質を検討することを目的とした。
方 法
参加者・分析析対象者 楽天インサイトの登録モニターを対象にウェブ調査を実施した。性別(男女)×年代(20代—60代)の各セル40名,計400名を目標としてアンケートを配布し,455名から回答を得た。そのうち,研究へのデータ提供に同意しなかった者(15名),モニター登録情報と自己報告の性別・年齢が一致しなかった者(26名),項目内容を読まず・理解せずに回答したことが強く疑われた者(183名)を分析から除外した。最終的な分析対象者は,21—69歳までの231名(男性112名,女性119名,平均45.8歳,SD = 13.5歳)であった。性別×年代の各セルに含まれた分析対象者の人数は,19—29名(平均23.1名)であり,大きな偏りはみられなかった。
日本語版Imposing Memory Task(IMT-J) 参加者は,音声呈示された複数の人物が登場する日常場面を記述した短いストーリーを2回聞いた後,その内容理解を問う項目に回答した。内容理解の項目には,メンタライジングの高さを測定するための信念理解項目(e.g., 「スズキさんは,郵便局が中央通りにあることを知っていたタカハシさんが,わざと自分をだましたに違いないと考えた」)と,一般的な記憶能力を反映すると想定された事実理解項目(e.g., 「郵便局は,中央通りに移転していた」)があった。メンタライジングの志向水準に対応した,1—6次までの項目で構成されていた。IMT-Jには5つのストーリーが含まれていた。
結果と考察
正答を1,誤答を0とコーディングし,信念・事実理解項目の各志向水準について,誤答率の平均値を性別ごとに算出した(Figure 1)。誤答率について,2(性別)×2(質問内容:信念vs.事実理解)×5(志向水準:2—6次)の混合要因分散分析を行なったところ,質問内容×志向水準の交互作用(F (4,916) = 67.52, p < .001)が有意であった。
単純主効果検定を行なった結果,すべての志向水準において,質問内容の単純主効果が有意であった(Fs (1,229) > 26.44, ps < .001)。3次—5次の志向水準では,信念理解項目のほうが事実理解項目よりも誤答率が高かったが,2次と6次では事実理解項目のほうが信念理解項目よりも誤答率が高かった。また,いずれの質問内容においても,志向水準の単純主効果が有意であった(Fs (4,916) > 79.98, ps < .001)。信念理解項目では,5次>6次>3次>4次>2次の順で誤答率が高かった(ps < .001)。一方,事実理解項目については,6次>2次≒5次>3次≒2次の順で,誤答率が高かった(ps < .001)。理論的な予測や先行研究の結果(Kinderman et al., 1998)からは,信念理解のほうが,事実理解よりも困難であり,特に志向水準が高い場合にその差が顕著になると考えられたが,それらとは一致しない結果であった。
さらに,性別を統制し,質問内容ごとに各水準の誤答率と年齢との関係を検討した。その結果,5次の信念理解項目については年齢が高いほど誤答率が高かった(beta = 0.003, SEbeta = 0.001, p < .001)が,6次の信念理解項目については年齢が高いほど誤答率が低かった(beta = 0.003, SEbeta = 0.001, p < .001)。平均値の推移も考慮すると,IMT-Jの信念理解項目は,志向水準が高くなるほど複雑な情報処理を要するわけではないことが示唆された。
本研究では,主に平均値の推移からIMT-Jの性質を検討したが,理論的な予測や先行研究の結果と整合的でない結果が得られた。今後の研究では,他の心理変数との関連から,IMT-Jの性質を詳細に検討する必要がある。

キーワード
メンタライジング/心の理論/個人差


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