発表

3A-079

前訓練期における“心の専門家”アイデンティティの発達

[責任発表者] 西村 信子:1
1:駒澤大学コミュニティ・ケアセンター

1.はじめに
 我が国における臨床心理士は,臨床心理学の知識と技術を用い,人間の心の問題にアプローチする“心の専門家”である。その活動の場は,教育,医療,司法,福祉,産業と多岐にわたり,社会的要請は増している。公益社団法人日本臨床心理士資格人認定協会が認定する臨床心理士養成大学院では,一定水準以上の基本的な知識と技能,さらには実習を通した陪席や面接,スーパーバイザーによる指導等,“心の専門家”となるための教育体制が整備されてきた。他方,そのような養成大学院卒業後の雇用形態や労働条件はいまだ不安定であり,改善が急務とされる。
 これまで臨床心理士のアイデンティティ発達に関する研究では,主に養成大学院での訓練期や卒業後の実践期について研究が進められてきた。本研究では,臨床心理士養成大学院入学前までの前訓練期に注目し,職業選択として“心の専門家”を志すアイデンティティ発達のプロセスを明らかにすることを目的とした。
2.方法
 対象者は,13名(男性5名,女性8名)。臨床心理士養成大学院1年生8名と2年生4名。調査時期は,2018年10月から2019年1月。調査方法は,半構造化面接法による面接調査を実施。面接回数は1回,所要時間は120分。面接では,現在の状況,現在までの経過,卒業後の将来像について,対象者が感じている思いや考えをありのままに語ってもらった。分析方は,修正版グラウンデット・セオリー・アプローチ(以下M-GTAと略す)を援用した。面接で得られたデータから概念を生成し,複数の概念間の相互作用を検討しながら,カテゴリー,コアカテゴリーを生成した。さらにカテゴリー間の性質を検討しながら,順序性及び関係性を図に表した。分析過程では,臨床心理学を専門とする研究者によるスーパービジョンを受け,分析の真実性,妥当性の確保に努めた。
3.結果と考察
 M-GTAを援用した分析から,6概念,6カテゴリー,3コアカテゴリーを生成した(図1)。以下,コアカテゴリーは【 】,カテゴリーは《 》,概念は〈 〉で示す。
1)前訓練期における“心の専門家”アイデンティティの発達を構成するカテゴリー
《心理学との出会い》“心の専門家”を目指す大学院生は,自らの進路選択の時期を迎え,家族や教師など周囲の方々から様々な方向性を提案されていた。方向性の一つとして〈大学進学を意識する中で,心理学という学問を知る〉ようになっていた。
《“心の専門家”への憧れ》心理学への関心が高まり,また大学受験が近づき心理学科進学が現実味を帯びてくる過程で,自己を見つめ直し,徐々に〈職業としての“心の専門家”に憧れる〉ようになっていった。
《心理学科の学生としての自己》大学受験し入学。様々な科目を履修し〈心理学科の学生として,進路について再考する〉ようになっていった。進路を考える高学年になると,臨床心理学への興味を再認し,また心理学科の仲間との交流を通して自らの進路について改めて考えを巡らせていった。
《“心の専門家”になるための進路選択》進路選択をする大学3,4年生になり,〈“心の専門家”を志し,大学院への進学を決意する〉。“心の専門家”になることを目標に,大学院入試の準備に入っていた。
《周囲の人々の存在》大学院進学を決意するプロセスでは,〈家族,先輩,先生等周囲の人々の存在が,“心の専門家”を志す原動力となる〉。周囲の人々からの見守りや励まし,さらにはアドバイス等を受けて,“心の専門家”を目標にし続けることができていた。
《他者を支える自己》周囲の人々の支えと共に,〈自らが経験を通して培った特性を活かし,他者を支える〉役割を担う存在となることを意識することも,“心の専門家”を目指し大学院へ進学するための後押しとなっていた。
2)前訓練期における“心の専門家”アイデンティティの発達
 大学院進学を決意するまでの前訓練期における“心の専門家”アイデンティティは,大学進学を検討し始める時期に《心理学との出会い》や《“心の専門家”への憧れ》を経る【進路を模索】する体験から始まっていた。その後,心理学科に進学し《心理学科の学生としての自己》を獲得し,将来の職業として“心の専門家”を志す《“心の専門家”になるための進路選択》することで【大学院進学を決意】する段階に入っていた。また,そのプロセスでは,家族,先輩,先生等《周囲の人々の存在》や《他者を支える自己》が【大学院進学へ導く力】となることが示唆された。

キーワード
アイデンティティ発達/心の専門家/前訓練期


詳細検索