発表

3A-078

幼児における親の付き添い効果
―定型発達児と自閉症児の比較から―

[責任発表者] 矢追 健:1
[連名発表者・登壇者] 池田 尊司:1, 齋藤 大輔:1, 長谷川 千秋:1, 菊知 充#:1,2
1:金沢大学子どものこころの発達研究センター, 2:金沢大学

目 的 課題遂行時,傍に他者が存在するだけでその成績に影響が及ぼされることが古くから知られており,課題成績が向上することを特に社会的促進(social facilitation),同様に低下することを社会的抑制(social inhibition)と呼ぶ(Allport, 1924)。この社会的促進ないし抑制が生じる認知的基盤については議論があるが,特に他者の心的状態を推測するメンタライジングの能力と関係していることが指摘されている(請園, 2016)。また,この促進ないし抑制の効果は,存在する他者の性質によって変動することが知られている。社会的促進・抑制は最も基本的な社会的認知による影響のひとつであり,その研究は長い歴史を持つにも関わらず,成人ほど社会性が発達していない乳幼児や,メンタライジングの能力に障害があるとされる自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder:ASD)者においてどのような効果が生じるのかについては検討が進んでいない。
 そこで本研究では,特に幼児において最も身近な他者である両親が傍に付き添っていることによって,見知らぬ他者が付き添っている場合と比較して課題遂行成績にどのような影響が現れるかを検討した。また,メンタライジングの能力に障害があるとされるASD児と定型発達(Typical Development:TD)児とを比較することによって,課題成績にどのような違いが生じるのかを検討した。
方 法◆被験者
 TD児18名(男性12名,5歳0か月―7歳7か月)およびASD児12名(男性8名,5歳0か月―7歳5か月)が実験に参加した。
◆課題
 幼児にとってなじみの深い交通信号を題材としたGo/NoGo課題を用いた。試行が始まるとまず黄信号が呈示され,その信号が黄色から青色に変わった場合にはできるだけ速くボタンを押して車を発進させ(Go),赤色に変わった場合には押さない(NoGo)よう教示した。Go試行とNoGo試行はそれぞれ50試行ずつがランダムな順序で出現した。
◆条件
 被験者内要因として,課題遂行時に母親または父親のどちらかが実験補助者と共に被験者に付き添っている条件(親条件)と,実験者と実験補助者の2名が付き添っている条件(実験者条件)を設けた。付き添い者には被験者に対して適宜声掛けをするよう教示し,被験者に対する態度をできるだけ一定とするようにした。また付き添い条件の順序は練習効果・疲労効果の影響を考慮して被験者間でカウンターバランスをとった。
結 果 Go試行およびNoGo試行それぞれの平均正答率(図1)について2(TD vs. ASD)×2(親 vs. 実験者)の2要因分散分析を行ったところ,まずGo試行では群の主効果(F(1, 28)= 2.47)および条件の主効果(F(1, 28)= .00)は有意ではなく,両者の交互作用(F(1, 28)= .40)も有意ではなかった(ps > .05)。次にNoGo試行では群の主効果(F(1, 28)= 1.12)および条件の主効果(F(1, 28)= 1.95)は有意ではなく(ps > .05),両者の交互作用(F(1, 28)= 3.30)に有意傾向が見られた(p = .08)。
 次にGo試行における平均反応時間(図2)についても同様に2要因分散分析を行ったところ,群の主効果(F(1, 28)= 1.98)および条件の主効果(F(1, 28)= .21)は有意ではなく,両者の交互作用(F(1, 28)= .88)も有意ではなかった(ps > .05)。
考 察 正答率および反応時間を見るとTD児は親条件で課題成績がやや向上し,ASD児はその反対の傾向を示しているが,TD児とASD児の違い,また親条件と実験者条件の違いは大きくない。これは課題が5~6歳児にとって比較的簡単であり,天井効果が現れたことがひとつの原因として考えられる。NoGo試行の正答率については群と条件間で交互作用がある可能性が示されたが,TD児とASD児とで付き添う他者の性質の違いによって成績に及ぼされる影響が異なるならば,両者間には他者のとらえ方に何らかの違いがある可能性がある。また,TDとASDの両群ともに課題成績には被験者の年齢,IQ,社会性や自閉症傾向など様々な交絡要因が影響していると考えられるため,こうした要因の影響について個別に検討を加える必要があるだろう。

キーワード
社会的促進・抑制/自閉スペクトラム症/社会性


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