発表

3A-077

青年期における自己否定的体験への対処(2)
大学生の回顧的語りをもとにしたモデルの構成

[責任発表者] 中山 留美子:1
1:奈良教育大学

問題と目的
 青年期は,客観的な自己認知が可能になったり価値感が形成始めたりすることで,心理社会的適応における自己評価や他者評価の重要度が増し,また,自己に否定的な認識や感情をもちやすくなったりする時期である。自尊感情等に関する縦断的・横断的な研究からは,青年期初期に自己評価の低下がみられることや,青年期全体が他の発達段階に比べて自己評価の低い発達段階であることが示されてきている(都築,2005;小塩ら,2014など)。
 先行研究は青年が成人期,老年期と発達していく中で,自己の肯定的側面を見出し,自己評価をポジティブに維持できるようになっていくという道筋を示しているものの,どのような体験や思考過程をとおして,そのような道筋が描かれていくのかということについては,あまり検討されていない。そこで本研究では,大学生に青年期初期からの体験を回顧してもらう面接調査の結果から,自己に関する否定的な体験に対処していくプロセスを明らかにすることを目的とした。

方法
(1)調査協力者 大学生21名(男性7名,女性14名)
(2)調査方法 一斉メールで調査協力を呼びかけ,協力希望を申し出た学生に対して個別に1時間程度の面接時間を設定し,半構造化面接を実施した。
(3)調査内容 小学校高学年から現在までをふり返り,自分についての否定的な体験と体験についての認識や対処を話してもらうよう依頼した。自由な語りをしてもらうなかで,以下4点について尋ねた。①出来事はどのようなものだったか,②その出来事に対してどのように対処していったか,③その出来事のことを家族や教師,友人などの他者に話したか,話した場合他者はどのように関わったか,④その出来事は現在のあなたにどのような影響を及ぼしているか

結果と考察
 修正版グラウンデッドセオリーアプローチ(木下,2007など)に基づく分析の結果,自己否定的な体験とそれへの対処の過程に関して,27のカテゴリーと5個の中位カテゴリー,1個の上位カテゴリーが生成された。上位カテゴリーは「目標に対する行動の維持・遂行」であり,自己否定的な体験が生じるきっかけとなった行動がそもそもどのように維持・遂行されているかという性質に関わるカテゴリーであった。中位カテゴリーのうち④と⑤はともに「影響の調整要因」であるが,④はフィードバックの影響に対する調整要因,⑤は否定的な意識・感情が目標の維持・遂行に及ぼす影響に対する調整要因として区別した。
 生成されたカテゴリーの関連を検討し,プロセスに関する仮説モデルを構成した(Figure 1)。自己評価や他者評価を通して自己に対する否定的な感情や認識が生じ,それが目標の遂行にも影響を及ぼすという,太い下向き矢印で示された流れは,青年期に見られる基本的な心理過程であると捉えられた。この心理過程に対して影響を及ぼす変数が,目標やそれに向けた行動の維持や異なる目標や行動への変更といった異なる結果を導く変数であり,「対処のプロセス」について評価・検討する視点となると考えられる。以下では,注目すべきと考えられた変数について考察する。
 自らの遂行に肯定的な評価をしていたとしても集団の中で浮いた存在になるなどの「非受容」の感覚は,遂行を停止させるほどの重要な影響をもつことが明らかになった(③)。たとえ明確で内発的な目的意識をもち,それに向けて効果的な行動ができているという自己・他者の評価があっても,同じ目標に向かう所属集団に受け入れられていないという感覚があると自己否定に陥り,目標や所属集団からの退却を考えてしまう(「他者からの非受容」)。ただし,内発的な目的意識は,その状況を何とかして打開できないかという模索にも繋がっていた。
 一方,自己否定的な状況を体験し,その状況を打開することに繋がる調整要因(⑤)が働かないことは,目標をあきらめること等に繋がる傾向にあるが,そういった状況にあったとしても,遂行に直接関わらない他者との関係があることで,そこで得る肯定的なエネルギーを原動力に目標やそこに向かう行動遂行を維持することが可能になる場合がある(「状況外の要因による動機づけの維持」)。例えば,アルバイト先での仕事がうまく習得できず,自分は全くだめだと落ち込んでおり,周囲からもうまくいかないところについて指導されたりしている状況であったとしても,楽しく語り合える仲間として受け入れてもらっているというような場合である。これらの要因からは,目標に直接関わらない対人関係の形成が,自己否定的体験と向き合う過程を支える重要な機能を担っていることが示唆された。

キーワード
青年期/自己評価 / 自尊感情/対処(過程)


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