発表

3A-074

多文化プレイショップにおける言語的文化的に多様な子どもたちとのブロックを介した遊びの微視的分析

[責任発表者] 内田 祥子:1
1:高崎健康福祉大学

目的
 言語的文化的に多様な就学前の子どもが増加するなかで,彼らへの日本語の教授方法の検討は急務である。しかし日本語が支配的に用いられる保育の場で,語学習得のみを求めることは,彼らを本来もつべき力が「欠けている存在」として可視化させる可能性をもつ。子どもたちの自己肯定感を育みながら保育者との関係構築を実現するには,母語が異なる者同士での言語獲得を目的としないコミュニケーションにおいてその能動性を引き出す方法の検討が必要である。母語を同じくする大人‐子ども間では,共に同じ物を注視する三項関係において大人の発話を聞くなかで高められることが明らかにされている。一方筆者らは多文化プレイショップ(Uchida & Hasumi & Ishiguro, 2018)という大学と保育施設が協働で展開する研究実践サイトにおいて,保育者を志す日本の大学生と主にブラジルにルーツのある子どもたちとの間で廃材,粘土等の多様な資源を介した遊びによる意味生成を促している。母語が異なる者同士での言語獲得を目的としない遊びにおいては,言語的な関わりが必ずしも必要でない(Uchida, 2019)ため,非言語的関わりに着目する必要がある。そこでは,大人と子どもが物の配置変更や,視線共有による物理的な環境の時間的・空間的構造化(石黒,2013)を通じて互いの知覚分化を促していると考えられる。以上を踏まえ本研究では,多文化プレイショップにおける大人と子どもの非言語的相互行為と,積み木の配置による空間的構造化の特徴を微視的に分析する。
方法
 多文化プレイショップはブラジル人が運営する保育施設の預かり保育時に月1回約2時間実施される。毎回の活動に3~5歳の幼児約25名と学部生数名と保育者,地域ボランティア,研究者が参加する。活動の様子はビデオカメラで記録され,フィールドノーツが作成された。分析対象は2018年12月に実施されたカプラという同一の大きさ,形,色の積み木を使って構成を楽しむ活動で,学生スタッフリーダーの日本人学生Eと,初めてプレイショップに参加した主にポルトガル語を話し,日本語は日常的に話す機会をもたない男児R(3歳児)との積み木を介した相互行為場面(開始から終了までの4分間)である。動画ソフトElanで再生し,男児RとEによる他者に向けた非言語的行為と,積み木行為を秒単位で記述した。
結果と考察
 Rは4分間のうち76%(183/240秒)を積み木行為に費やしており,積極的に積み木遊びに参加していた。全過程で用いられた言語的発話は1回のみで,それ以外の相互行為は言語を介さずにおこなわれた。Figure1にRとEの相互行為過程における非言語的対他行為と積み木行為の変遷を時間軸にそってまとめた。【積み木行為の分類】積み木による構成行為で,5つに大別された(立たせる〇:並べる●:揃える◎:集める◆:向きを変える△)。【非言語的対他行為の分類】言語を用いずに他者に注意を向けたり働きかけをおこなう行為で,他者凝視(A)情動や要求を示す際に他者を凝視する,他者観察(B1)他者が積み木に関わっている様子を見る,他者指示(B2)指示内容を他者に指し示すための意図的な身振りに分類された。他者凝視は積み木を介在させない二項関係,他者観察・指示は積み木を介した三項関係による。系列1~15で,積み木をうまく扱えないRは,助けや共感を求めるようにEの顔を見る身振り(A)を繰り返した。一方EはRによる凝視にうなずきながら応じる(A)ことに加えて,Rの構成を観察しながら(B1),Rが積み木を取りやすいように積み木を集めたり(系列7,11,12,14),Rと同じタイミングで同じ構成(系列4,6)行うなど空間的配置の微細な調整をはかった。やがてRもまたEが積み木を構成する様子を観察する(B1)ようになり,系列16~31に,積み木をEに渡して遊びに誘うような身振り(B2)や,EとRがそれぞれに直線状に並べた積み木の縁にそって指先を動かすことで,「まっすぐ」であることを指し示す身振り(B2)をした。するとEは自身で構成した積み木(系列17~19)の向きを変え(系列21)互いの積み木の形状の共通性を強調しながらRと同様の身振り(B2)を繰り返した。RとEの相互行為は,2項的なやりとり(A)から3項的なやりとり(B1/2)へ移行した。それは積み木行為の相互観察とEによる微細な積み木行為の調整を通じて協働的に構造化されていた。以上から,多文化プレイショップにおける協働的な遊びでは,言語を介さずとも,母語が異なる者同士における相互性を深めることが可能だといえる。
Sachiko Uchida, Eri Hasumi, Hiroaki Ishiguro. (2019). Multicultural Playshop: Play-based UC collaboration for Japanese Brazilian preschoolers in Gunma, Japan. UC Links 2019 International Conference.
石黒広昭(2013). 実践される文化―子どもの日常学習過程における大人との協働. 河野哲也編著. 知の生態学的展開3. 倫理 人類のアフォーダンス所収pp.237-265.
謝辞:プレイショップ関係者の皆様に御協力を頂き感謝致します.本研究は科研費 基盤研究(B) 17H02710(研究代表者:石黒広昭 JP) の助成を受けている.

キーワード
多文化プレイショップ/言語的文化的に多様な背景をもつ子ども/保育


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