発表

2D-072

日本人向け心理学的知恵尺度の開発

[責任発表者] 春日 彩花:1
[連名発表者・登壇者] 佐藤 眞一:1, タカハシ マサミ:2
1:大阪大学, 2:ノースイースタン・イリノイ大学

 目的
 知恵は,一般的に人生の比較的後半期に表れる特徴として知られている。知恵を測定するための心理学的ツールは多いが,いずれも主に西洋における「知恵」の概念研究に基づいている。知恵の概念には文化差があると指摘されていることから(Takahashi, 2000, Yang, 2001),本研究では,日本人の知恵概念(Kasuga, Sato, & Takahashi, 2018)に基づき,日本人向けの心理学的知恵尺度を開発することとした。
 方法
対象者 web調査会社を通して募集した。20代(平均25.23歳,SD = 2.82)の男女各120名,30代(平均34.87歳,SD = 2.86)の男女各120名,40代(平均44.34歳,SD = 2.63)の男女各122名,50代(平均53.92歳,SD = 2.85)の男女各122名,60代(平均64.67歳,SD = 2.90)の男女各122名,70代(平均72.64歳,SD = 2.56)の男女各122名,計1448名であった。
試作版知恵尺度 知恵は,客観的に評価できる実用的能力に関する側面(e.g. 知識を有効に活用する力)と,客観的に評価しづらい個人の内面に関する側面(e.g. 内省,思慮深さ,共感性)から成ると考えられる(春日・佐藤・Takahashi, 2019)。本研究では,知恵に関わる内面的な特徴を評価する尺度を作成することとした。日本人にとっての知恵の構成要素(Kasuga et al., 2018)をもとに,90項目から成る試作版知恵尺度を作成した。各項目について,5件法による回答を求めた。
他の変数 社会的望ましさの指標としてバランス型社会的望ましさ反応尺度日本語版を(谷, 2008:24項目,7件法),幸福感の指標として心理的well-being尺度短縮版(岩野ら, 2015:24項目,6件法)を用いた。
倫理的配慮 大阪大学大学院人間科学研究科倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:人行29-107)。
 結果
 床効果の見られた1項目,および社会的望ましさとの相関がr = 0.35以上の項目を除外して,最尤法promax回転による探索的因子分析を行った。因子数はMAP基準と平行分析の結果,および解釈可能性を踏まえて検討し,6因子が適当と考えた。分析の過程で,因子負荷量が0.35未満の項目を除外した。複数因子に高い負荷量を示した項目と,共通性が0.3未満の項目は内容を検討し,特に不可欠であると考えられたもの以外は除外した。さらに,内容の類似した項目同士について,項目間の相関と内容を踏まえて比較し,より日本語として明瞭な項目を残して他方を除外した。最終的に計28項目が残った。各下位尺度の信頼性係数は,α係数とω係数でともに0.68~0.81であった。また,探索的因子分析の過程で,理論的にまとまり得る項目の多くが脱落して因子として抽出できなかったこと,および理論上,知恵が発揮される目的(e.g. 他者に助言する場面,自分の意見を主張する場面)によって主に関与する知恵の要素(e.g. 思慮深さ,内省,共感性)が異なると考えられたことから,6つの1次因子の背景に2次因子を仮定できるのではないかと考えた。そこで,知恵が発揮される目的を考慮し,6つの因子を,自己と他者の関わりの中で物事を捉える「自己と他者に関する要素」と,自分の生き方を方向付ける「自己に関する要素」に分けることができると考えて,2次因子分析を行った(Figure 1)。各2次因子は,仮説通り心理的well-beingとの間に一貫して正の関連を示し,従来関連すべきでないとされてきた社会的望ましさとの間にも正の相関を示した。また,各2次因子で,心理的well-beingや社会的望ましさとの関連の仕方が異なる傾向が示された(Table 1)。
 考察
 各2次因子で他の変数との関連の仕方が異なっていたことから,2次因子を仮定することは,知恵があるという状態をより詳細に検討するのに有効であると考えられる。また,社会的望ましさとの関連が強い項目を除外したにもかかわらず,知恵尺度と社会的望ましさの間に正の相関が示されたことから,日本人にとっての「知恵」には社会的に望ましくあることが含まれている可能性が示唆された。本尺度について,今後更なる信頼性・妥当性の検討が必要である。
(本研究はJSPS科研費JP18K03094(代表研究者:佐藤眞一)の助成を受けて実施した。)

キーワード
高齢者/知恵/尺度


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