発表

2D-069

仔ウマの親和的関係の形成に母ウマが及ぼす影響

[責任発表者] 瀧本 彩加:1
[連名発表者・登壇者] 田中 未菜#:1, 上野 将敬:2, 河合 正人#:1
1:北海道大学, 2:大阪大学

序論
 群れで暮らす社会的な動物は,他個体と近くにいてともに過ごす時間が多く,横に並んでいたり,一緒に採食・睡眠をしたり,相互毛づくろいをしたりする。こうした他者との親密な関わりあいを親和的社会交渉 (affiliative social interaction) と言う。霊長類では,子どもの親和的社会交渉が母の親和的社会交渉に大きく影響を受けて発達する(e.g., アカゲザル (Macaca Mulatta) : de Waal, 1996)。そうした親和的関係に関する詳細な研究は,これまで霊長類を中心として行われてきており,他の社会的哺乳類ではまだ研究が少ない。
 では,霊長類に見られるような親和的社会交渉における母子間の類似は,霊長類以外の社会的哺乳類においても見られるのだろうか。ウマ(Equus Caballus)は一夫多妻制をとる社会的な動物であり,特にメスウマでは,他個体との親和的社会交渉を頻繁に行うほど,出生率と子が1歳まで無事に育つ確率が向上するというように(Cameron, Setsaas, & Linklater, 2009),親和的社会交渉の重要性が繁殖成功度との関連からも示唆されている貴重な社会的な哺乳類である。また追従型の子育てをすることで知られ,霊長類と同じく母子の結びつきが強い。そこで,本研究では,ウマを対象とし,群れで暮らすウマの母子の行動観察に基づき,母ウマが仔ウマの親和的関係の形成に与える影響について検討した。

方法
 北海道大学北方生物圏フィールド科学センター耕地圏ステーション静内研究牧場で集団放牧されている母子22組を含む北海道和種馬の群れ(全55頭)を対象に行動観察を実施した。観察期間は,11月下旬の離乳作業の前後約3カ月である2015年8月19日~2016年2月26日であった。合計観察時間は,離乳前が90.95時間,離乳後が68.65時間であった。
 観察者は,集団全体を対象としてスキャンサンプリング法を用い,1馬身以内にいる個体名を10分ごとに記録した。近接は1馬身以内に2個体がいることと定義した。また,相互毛づくろいについては,アドリブサンプリング法を用い,当該の2個体の個体名を記録した。なお,相互毛づくろいの終わりについては,互いにその行為をやめて佇んだり,他の行為に従事したりして10秒以上経過したとき,と定義した。

結果
 母ウマ間の親和的関係が仔ウマ間の親和的関係と関連しているのかを検討するために,それぞれの母子間において,母親が他の各母ウマと近接していた割合と,仔ウマが他の各仔ウマと近接していた割合を算出し,それらの相関関係を調べた。その結果,離乳前においてのみ,母同士の近接割合とその子同士の近接割合に有意な正の相関がみられた。離乳前においては,母ウマ同士が頻繁に近接するほど,その仔ウマ同士も頻繁に近接することを意味している。
 また,毛づくろいについても同様に母子間の相関関係を分析すると,離乳前においては母同士の毛づくろい回数とその子同士の毛づくろい回数に有意傾向の正の相関がみられ,離乳後においては有意な正の相関がみられた。つまり,離乳の前後によらず,母ウマ同士が頻繁に毛づくろいをするほど,その仔ウマ同士でも頻繁に毛づくろいをすることを意味している。
 さらに,近接することの多い母子間ほど毛づくろい相手が類似しやすいかを検討するために,母子間の近接割合と離乳の2要因が毛づくろい相手の母子間の類似度に与える影響について調べた。その結果,母子間の近接割合・離乳の主効果はともに有意でなく,交互作用も有意ではなかった。この結果は,離乳前に母ウマと子ウマがどれだけ近接しているか,また離乳前後で,毛づくろい相手の母子間の類似度に変化はなかったことを示唆している。

考察
 本研究の結果から,離乳前の母子間の物理的近接によって,母子間の近接相手が類似することがわかった。ただし,毛づくろいについては,離乳の前後によらず,母子間の毛づくろい相手が類似し,その類似度は離乳前に母子間が物理的に近接する程度に影響されないことも明らかになった。これらの結果は,仔ウマの親和的関係には母ウマ同士の親和的関係が大きく影響し,離乳後にもその影響は継続して見られうることを示唆している。母ウマが仔ウマの社会的親和交渉の相手を選ぶような行為も観察されるため,仔ウマの意思によってのみ親和的関係を築く相手が決まるわけではないが,仔ウマが母ウマと他個体との社会的親和交渉をよく観察し,それを参考に自身の親和的関係を築いている可能性は十分考えられるだろう。
 今後は,母ウマの子育てスタイルや母子間の相互作用が仔ウマの親和的関係や社会的認知能力の発達に与える影響を縦断的に調べていきたい。また,追従型の子育てをするウマと置き去り型の子育てをするウシの比較研究も展開していきたいと考えている。

引用文献
Cameron, E. Z., Setsaas, T. H., & Linklater, W. L. (2009). Social bonds between unrelated females increase reproductive success in feral horses. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 106(33), 13850–13853.
de Waal, F. B. (1996). Macaque social culture: development and perpetuation of affiliative networks. Journal of Comparative Psychology, 110(2), 147–154.

キーワード
ウマ/親和的関係/発達


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